不安3




―――――――side 一舞

 深夜0時過ぎ。

 部活が終わり、店のドアを勢いよく開けて飛び出す。



「ちょっ!待て待て!」

一舞
「わっ!?涼ちゃん!?」


 勢いに任せて走り出そうとした瞬間、ドアのそばに立っていた涼ちゃんに腕を掴まれた。


一舞
「え…何?…あたし急ぐんだけど」


「なんだよ…約束でもしてんの?」

一舞
「翔に…部屋で待ってろって言われてる」


「…………ふぅん」

一舞
「?」

(……なんだろう?)


 すごく意味あり気で、何か言いたそうな顔をしてる。




「…お前さぁ」

一舞
「…何?」


「祐弥にキスされたんだよな?」

一舞
「は!?」


「祐弥に事情聞いた。つーか、教室から見えたんだよ……運悪く…翔くんの受け持ちの時に」

一舞
「……え?」


「お前には疚しい事なんて無いのはわかってるけどさ」

一舞
「………」


「それでもお前が、何も無かったみたいに翔くんに会いに行くのは…どうかと思って引き止めてみた」

一舞
「………」

(翔が見てたなんて…)



「…まぁ、そういう事情?」

一舞
「そんな…………じゃあ待ってろって言ったのは、別れ話かもしれない?」


「いやそれはわかんねーけど…それ関係の話になってもおかしくないよな」

一舞
「………そっか」


「一応、祐弥から翔くんに、前もって詫び入れさせたけど…相当ヤキ入ったみたいだし…」

一舞
「……………」


「てか…もしかして、忘れてたとか?」

一舞
「…うん…すっかり」


「…………どうすんの」

一舞
「…どうするって…勿論、会うよ」


「で?」

一舞
「……わかんないけど、、頑張る……だって」


「………」

一舞
「………会いたいもん」


「………そうか」

一舞
「………うん」


「じゃあせっかくだし…送ってく…」

一舞
「え〜」


「なんだよその嫌そうなリアクション」

一舞
「や、嫌なんじゃなくて…誤解を招くのは嫌かなと」


「結局嫌なんじゃん」

一舞
「…一応アナタ元彼じゃないっすか」


「一応とか言うな…襲うぞ」

一舞
「うわ、さいてー」


「とにかく…保護者として送ってくから」

一舞
「…ありがと」





 …驚いた。

 そして今、すごく不安だ。


 翔からの返信に、ただただ浮かれてたあたしは、本当にバカだ…。


 いったいどんな気持ちで待ってろって、メールくれたんだろ………?



















 部活帰りの。久しぶりに涼ちゃんと歩く、家までの道。

 あたしはとにかく不安で…


一舞
「……はぁ」


「何回目だそのため息」

一舞
「だって…」


 仕方ないじゃん。

 このあと翔から何を言われるのかと思うと…とにかく怖くて仕方ないんだもの。



「はぁ…ったく……お前はいつもいつも」


 まるで涼ちゃんにもうつったみたいに、あたしの言葉はため息で返される。



「悪いけど俺……祐弥の気持ちもわからなくも無いんだよな」


 ため息を吐き出しながら、低く小さく、唸るように呟く。


一舞
「………どういう意味?」


「…どういう…って」







(!?)







 突然、近くにあった塀に体を押し付けられ、涼ちゃんの顔がすぐ目の前に近づいた。



「ほら。こうやってすぐ油断する」


 真剣な顔で、そのままどんどん距離を縮めてくるからたまらない。




一舞
「…やめて」


「チッ…」


 堪らず拒否したあたしの言葉に軽く舌打ちして、涼ちゃんは離れてくれた。



「無防備すぎんだよお前」

一舞
「………」

(…なにさ)


 なんだかすごく腑に落ちない…。

 油断とか、無防備とか。友達にまでいつも、警戒してなきゃいけないのかな…。



 涼ちゃんはあたしから離れると、再び前を歩き始める。

 数歩遅れて、やっぱり納得できない気持ちのままついて行く。


 そして静かに、涼ちゃんがまた話し始めた。



「友達だとか仲間だとか恋人だとか、いちいち気にするのはおかしいと思うかもしれないけど……付き合ってる方は気が気じゃねーんだ」

一舞
「…………」


「俺と付き合ってた時もそうだ……誰とでも近くなって、2人きりになるのも気にしないし。チャンスを与えるんだ…相手に…」

一舞
「………………」


「そんで……いい顔で笑って……勘違いさせる…」

一舞
「…………………」


「つーかお前、自分の事がわかって無さ過ぎだし…」

一舞
「…?」



 チラッとあたしを確認した涼ちゃんの顔がおかしい。

 なんですかその微妙な照れ顔は。


(ていうか…何?自分をわかって無いって、どういう事?…)




「まったく……自分の女臭さに気づけ」

一舞
「は?」


「…………」

一舞
「…はい?」


 だから、なんでちょっと赤くなってんすか。



「と…とにかく!」

一舞
「…」


「いくらイトコだって…法律上、結婚だって出来るんだ。祐弥が今それを考えてないとしても、ある程度の距離は置くべきだと思う」

一舞
「……………………」


「近くにいても、お前と付き合ってることさえ公言できない翔くんが…気の毒すぎるだろ…」

一舞
「………………………」

(…あ…そういうことか)



 さすがに、元彼からのこんな忠告はかなり、胸に突き刺さる。

 涼ちゃんの言葉に、あたしはもはや何も言えなくなって。涼ちゃんも無言になっちゃって。


 真っ暗な住宅街でただ、足を進めるしかなかった…。




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