不安2 ―――――――side 翔 赤髪の編入生と別れて数分。まだ冷めない感情を持て余しながらスタジオに入る。 ドサッ… 純 「ん?なんや…ご機嫌ナナメやなぁ」 翔 「………まぁな」 防音の効いた室内の、入口脇に置かれたソファーに荷物を放り出し、ドッカリと腰を下ろすと、すぐそばに居た純が怪訝な顔をした。 純 「なんかあったん?」 翔 「……別に」 純 「別にーいう態度ちゃうやん。何かあるなら言えや気ぃ悪い」 ![]() わざとらしく気分の悪そうな顔を作って、俺に目線を向けながら口を尖らせている。 純は昔から世話焼きなところがあるから本当は…気分が悪いと言うより、俺を心配してるってのが本音なんだろう。わかってはいるが言いたくねー。 翔 「…………………」 それにしても…。 今回の事もそうだが、一舞の父親の件だってそうだ。なんだってこうも妙な問題ばかり起きる? ただ傍に居たかっただけなのに、なんだってこんな気持ちにならなきゃいけないんだ…。 純 「あん?」 翔 「………くそっ」 一発くらい殴っとけば、少しはストレス発散できたのかもな。 苛立ちが全っ然治まらねー。そのやり場も見つからず頭をかきむしる。 純 「…?」 翔 「………はぁ…」 グシャグシャになった髪を乱暴に掴んだまま、頭を抱えるようにうなだれた俺の口から、意図せずため息が漏れた。 純 「…欲求不満?」 翔 「は!?…そんなじゃねーわ」 純はクックッと肩を揺らすが、まったく合ってねーだろそれ。 まぁ間違いとも言い切れないけど…。 翔 「俺で遊ぶなモミアゲ」 純 「モミアゲて、まぁええわ。お前の歌入れ待ちやねん。早よせな学さんキレよるで」 翔 「…キレさせとけよ面倒くせー」 放り投げたダテメがカシャン…と音をたて、テーブルの上を滑って行く。 更にグシャグシャとかきむしった髪が指に絡んで尚更苛立つ。 純 「…恋に悩む翔くんを見るんは久々やなぁ」 翔 「…はぁ?」 純 「可愛らしいやん?」 翔 「やめろ気持ちわりぃ」 純 「あれやで?我慢とか…慣れへんことせんほうがええで?」 翔 「……」 純 「不得意なことしとるからストレスなんねや。つーか透瑠とキャラ被ってんねん。我慢ばっかせえへんのがお前やのに」 翔 「………」 純 「今をもっと大事にせな」 翔 「………わかってるよ」 涼しい顔をして純はまた作業を始める。 少し落ち着きを取り戻した俺は、かき乱した髪をそっと直しながら、革張りのソファーに体を預けた。 今俺が我慢してんのは、全部一舞のため…。 (いや…結局は自分のためかもな) 少しでも永く一緒にいたいから。 今のままじゃ守れないから…。 …守りたい。 俺がそう思っててもアイツは、守って欲しいなんて思ってないかもしれない。 それに…そんなことを思ってるくせに。 目に見える場所で、一舞の傍に居ながら、その頭上に降りかかったモノを払ってやることも出来なかった事が、すげー腹立たしい…。 この苛立ちと、意味不明な不安感… (…………面倒くせー…) 彰 「お疲れ」 (!) 翔 「あ……お疲れっす」 ドラムの音入れが終わったらしく、俺らだけだった部屋に彰さんが静かに入ってきた。 彰 「…疲れた顔してんなぁ」 純 「欲求不満やねんて」 優しく微笑みながら俺の横に座った彰さんに向かって、純が薄ら笑いを浮かべて言った。 翔 「お前なぁ」 彰 「純?」 いい加減にしろと、眉をひくつかせながら純を睨むと、彰さんは俺を制して純に声をかける。 純は半笑いのまま、自分の口の前で両手の人差し指をバッテンに結び、口をつぐんだ。 彰 「なに?純にからかわれるなんて疲れすぎなんじゃないの?」 翔 「……別に」 彰 「………ん?」 翔 「はぁ……やっぱ…年下すぎんのかもしんねーっすわ」 彰 「…………あぁ」 翔 「……」 彰 「なんだ…一舞のことか」 翔 「………」 彰 「…別に年なんか、どうでもいいだろ」 翔 「…でも…障害にはなってますよ」 彰 「そう?お前が障害にしちゃってるだけじゃねぇの?」 翔 「………どうすかね」 俺が…障害にしてる? 彰 「ふっ…わかっててくっついたクセに、何言ってんだか」 翔 「…まぁ…そうなんすけど」 彰 「で?本当の悩みは?どうしたいの?」 翔 「…………」 どうしたい…と聞かれても、どうもこうもねー…。 今はただムカついて、ただ不安なだけだ…。 彰 「無理してるから辛い?…まぁ、自分を殺すのは普通に苦しいよな」 翔 「………」 別に…無理やり《自分》を押し殺してるわけじゃない。 我慢は仕方ないことだし。ただ今は、やりきれないだけだ…。 彰 「まぁ現状は、我慢しなきゃならないことが多いのかもしれねーけど…翔はまだ若いんだし」 翔 「………………」 彰 「少し…息抜きしてみたら?」 翔 「……」 彰 「学のことなら俺がなんとかしてあげるよ?」 翔 「…じゃあ……今日は俺、一曲歌入れしたら帰りますよ」 彰 「あぁいいよ……一舞は鈍いからな。ちゃんと意思表示はしといたほうがいい」 翔 「…なるほど」 なんとなく、息抜きって口実は、今の俺には都合がいい。 (ここは彰さんの言葉に甘えちまおうかな…) せっかく…一舞が待ってるんだから。 Novel☆top← 書斎← Home← |