赤髪10




―――――――side 祐弥


「……どうした?……言わねーならこのまま帰れなくしてやろうか?」

祐弥
「いっ、言いますよ…怖いなぁ」


 さっきまで穏やかに耳を貸してくれとった筈の一舞の彼氏。

 表情は変わらへんけど、声のトーンは少し低なって、瞳はギラッと怒りを湛えとる感じや。

 正直言うて怖い。

 怒鳴られるでも、殴られるでもなく、ただ空気だけが変わった。

 この喰われそうな圧迫感はなんや…!?


 俺は、恐ろしいほどの覇気の中、俺自身がやってしもたことをありのまま話した。

 もちろん跳び蹴りされたことも、どんなけ一舞が翔さんを好きか聞かされたことも…。

(てか最後のそれは、俺のライフラインやし…)



 話し終えても、翔さんのオーラはずっと悪魔的なままや。

 雰囲気だけでこんな恐ろしい人初めてやし、どうしたらええんかわからん。



「…どっちにしろ……一方的にお前が悪いな」

祐弥
「勿論です…せやからどうにか謝りたい思て」


「俺の女に手ぇ出して…謝るだけで済むと思ってたのか」

祐弥
「え…いや…」


「………」

祐弥
「!!」

(怖いってマジで〜!)


 目線だけでどうにかされそうで、ほんまに恐ろしくて俺は、無意識にギュッと目を閉じてもうた。



「ふん……………………イトコねぇ…」

祐弥
「……」
(…うぅ)


「……俺は今のところ教師だが…どんなことでもできるぞ?」

祐弥
「……」


「…どうしてほしい?」

祐弥
「!」


 また声色が変わった。まるで楽しんでるかのような、嘲笑ってるかのような、でも怒りは消えてない言う雰囲気はそのままで…

 何や?

 いったい何やねんこの人!?



「まぁ……一舞の跳び蹴りに免じて、今回は見逃してやるか」

祐弥
「ま……マジっすか」


 その言葉に、フッと安心して気が緩んだその時。



「次に何かしたら…」

祐弥
「う…!」


 悪魔的な雰囲気のまんまその瞳が揺れて…



 やけに艶っぽい声が耳に響くと同時に、俺の首もとを翔さんの指がなぞるように触れた。

 その感触に全身が凍りついたみたいになって、一気に背中を冷たい汗が伝う。


祐弥
「!」


 一瞬の余韻の後、その手は俺の首をガッチリと掴んだ。



「………殴るよりこの方が、効果的か?」


 翔さんの手に力が入っていく。

 苦しいとか痛いとかよりも、マジで殺られるんちゃうかて…そっちの恐怖のがデカい。


(もう無理や…誰か助けてくれ…)









      ガチャッ…





祐弥
「わっ!?」


 急に息苦しさから解放されたかと思たら、俺は丸ごと車の外に放り出されていた。



「…ここからは歩け。俺は忙しい」


      バタンッ!!


      ブォー……


祐弥
「…」

(た……助かった…)


 走り去る車を呆然と見つめながら、急激な安堵感でガクガクと震える体をどうにも出来んかった。





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