赤髪7 ゆっくりと。懐かしい校舎の中を職員室に向かって歩く。 「あ!藍原センセ〜!」 「えっ?まじで!?」 廊下ですれ違う女子生徒が、黄色い声で騒ぎながら手を振ってきたので…面倒くせーが、とりあえず笑顔で手をふり返す。 「「キャー!!!可愛い〜!!」」 翔 「……」 何が可愛いんだか意味不明だ。 (お前らと遊ぶ気分じゃねーんだコッチは) つい舌打ちでもしてしまいそうになるがなんとか堪えた…。 (頑張った方だろ) ……………… ………… ……… …… 職員室に戻った俺の机の上には、キラキラとラッピングされた菓子らしき物が山になっていた。 翔 「………机が使えねー」 「あぁ、さっき普通科の生徒が置いて行ったんですよ。家庭科の授業で作ったから食べてもらいたいんだとか言ってねぇ。藍原先生は人気があって羨ましいですなぁ」 (………人気…ねぇ) 翔 「…………あの…」 「はい?」 翔 「良かったら皆さんで食べてもらえませんか?俺、甘い物食えなくて…」 「それは勿体無い!」 「そうですよ!生徒達が悲しみますよ!」 翔 「そうなんすけど…内緒で俺の代わりに。お願いします」 胸の前で手を合わせて、困り顔でのオネダリポーズ。 オッサン相手に使う日が来るとは思わなかったな…。 「そうですかぁ?仕方ないですねぇ…それじゃあ皆さんで分けましょうか」 翔 「すんませーん」 (何が仕方ねーだ。満面の笑みで愚痴んじゃねーよ) 待ってましたとばかりに群がる加齢臭くさい集団。その勢いに若干苛立つが…まぁでも助かった。あんな山盛りの甘いスイーツなんか食えないからな。 (捨てることもできねーのにマジ迷惑極まりねーし…はぁ、もう帰りてー…) そう思いながら、ようやくスペースの開いた机に教科書を置く。 ため息交じりに椅子に座ると、机の天板を鳴らすバイブ音と、聴きなれた着信音。 翔 「!」 この音…。 一舞からのメールだ。 「ん?」 翔 「あ、すんません、俺のケータイです」 「おや?もしかして彼女ですか?」 翔 「…あぁ…まぁ」 「そうですよねぇ、こんなに男前なんだから彼女くらい居ますよねぇ。それは女子生徒には応えられないでしょうな」 翔 「…」 (…このハゲいちいちウッセーな) 今のところ教えられないが、俺の彼女は此処の生徒なんだよな。 改めて自分に驚きだ、まったく。 生徒達が俺の机に置いて行ったというカップケーキ。 甘い香りをプンプンさせて、ハゲたオヤジ共の口に運ばれていく。 (まぁ俺とそう年の離れていない先生も居るが、面倒くせーから全員纏めてハゲってことにしとこうか…) 俺は自分の椅子の背もたれにギィ…っと音が鳴るほど体重を掛け、ケータイを開く。 一舞からのメール。文面はいつもと変わらない。 …どうしてだろう? いつもと同じってのはおかしいよな? あれは見間違いじゃなく、あのシルエットから何があったのかなんてかなり確信が持てるんだが…。 翔 「……………」 (…どうする?) いつもは確認するだけで返信はしないんだけどな…。 何か疚しいことがあるのかもしれない。そんな考えが浮かんでそのまま閉じることができない。 あの一舞に限って浮気なんてあるわけない。そんな気持ちもありながら、疑りたくなる俺は何なんだ? 「っあー!面倒くせー!」 「藍原先生!?どうしました!?」 (はっ!つい…心の声が口から出ちまった!) 翔 「いえ、何でも無いっす」 「ふふっ、喧嘩でもしてるんですかぁ?」 翔 「いやそういうんじゃないっすよ」 若いって良いですねぇ。とか言いながらまだ菓子に群がって談笑の続きを始めるハゲ共。 (つーかコッチ見んな!) 声になって出ちまう程に、この状況は俺にとって面倒だ。 考えてても始まらない。直で話すしか無いだろ。 俺は開いたままのメールに、簡単な返信をした。そしてケータイを閉じ、次の授業の準備を始める。 一舞がどうあれ、俺の気持ちは変わらない。 ちゃんと話し合えばいい。 絶対に大丈夫だ。 …たぶん。 Novel☆top← 書斎← Home← |