明暗1





(そうか…そういう意味にも、聞こえちゃうよね…)


 悪いのはあたしだ。涼ちゃんが、あたしを憎んでいる原因が…あたしの言葉だったなんて。


(あの言葉をあたしは約束にして、ずっと支えにしてきたのに、涼ちゃんにとっては……)










美樹「…一舞?」


 あたしの手に触れて、美樹ちゃんが心配そうに顔を覗き込んだ。


一舞
「…うん、大丈夫」


 あたしは美樹ちゃんの顔を見て頷いた。


 ほんの些細な一言が、涼ちゃんを失望させた。その事実を今初めて知ったあたしは、いったいどうすればいいのかな。


美樹
「…一舞?」

一舞
「…あたし、涼ちゃんに謝る」

美樹
「…うん」

一舞
「謝って、誤解を解かなきゃ…」

美樹
「…うん、そうだね」


 美樹ちゃんが優しく頷いてくれる。


(そうだよ。誤解されてるならちゃんと話さなきゃ)


香澄
「アタシは嫌だなぁ…」

美樹
「どうして!?」

香澄
「だって…そりゃ昔のままの涼ちゃんなら、全然応援するけどさぁ…。今の涼ちゃんは、アタシ…ヤダ。一舞に近づけたくない」


 香澄はそう言うと、少し拗ねたようにサラダをつついた。



「まぁまぁ…一舞がどうしてもってんなら仕方ねーし、お前が意地んなるこっちゃねーだろ?」


 照ちゃんが優しく香澄をなだめる。

 あたしはとにかく、話さなくちゃいけないって…そう思ってた。


(仲直りしなきゃ…だってあたしは、そのために戻ってきたんだから…)


美樹
「一舞が話し合いたいって言うなら、わたし協力するから」

一舞
「ありがとう」


(うまく話せるかな…)


 決意した途端に弱気になるのは如何なものか。美樹ちゃんに握られた手に汗が滲む。



「しょういえば、かじゅま」

一舞
「ぶっ!?」


 突然、照ちゃんが、ほっぺにご飯粒をつけてもごもごしながら話しはじめたものだから、つい吹き出してしまった。


香澄
「ちょっ!ばか!」

美樹
「食べ終わってからにして」


 香澄と美樹ちゃんも、怒りながらも微笑んでいる。おかげで張り詰めていた気分が少し緩んだ。



「わりぃわりぃ。つか一舞に教えといてやんねーとと思ってさ」


 そう言って話しはじめたのは、あたしの知らない学校の秘密。

 それぞれの学科ごとに広々とした校舎と、そこに併設された練習施設。あの広い学校を作ったのが《香澄のお爺ちゃん》で、創立されてから日の浅いあの学校の一期生が《香澄のお兄さん》だということ。

 一期生が作り、それが伝統となって学校全体を取り仕切っている部活動が…涼ちゃんが部長を務める団体。

 しかも、本人の意志はほぼ聞き入れられないまま、生徒からの支持のみで決定されてしまう部長職。そのために学校全体を取り仕切る責任を負ってしまったのが彼だということ。

 責任は重大。普通の高校生活は無いに等しいかもしれない。

 一在校生であることに変わりはないのに…。








(そんなに忙しい人なのに、話すチャンスなんてあるのかな…)


 照ちゃんの話を聞いたら、また少し、心配になってしまった。





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