赤髪4 ―――――――side 一舞 祐弥 「…とりあえず………連絡先だけ交換しとこか」 若干頬を赤らめながらそう言って、祐弥くんは携帯電話を取り出した。 一舞 「あぁ…うん」 (確かに。何かあるたび綾経由じゃ手間だし、交換しとこかな…) ジャラジャラと大量に、香澄が付けたストラップが音をたて、制服のポケットから取り出されるあたしのケータイ。その姿を確認し、祐弥くんは赤外線を構える。 祐弥 「ほんなら受信してな」 一舞 「うん」 今まで知らなかったイトコの存在。それは、あたしにとってとても嬉しいもので、なんだか無意識に顔が綻ぶ。 初対面の時に感じた、あの見透かされたような視線も、今なら理由もわかる気がして気にならない。と言うより、案外いい人だって事が妙に安心感を与えてくれるようで…これからまた楽しくなりそうだなぁなんて、ちょっとだけ気分が上がる。 カシャーン…… 祐弥くんの携帯に連絡先を送り終えた瞬間。 背後にあった屋上のフェンスが小さく音を立てた…。 一舞 「え?」 少し驚いて顔を上げると… (!) 祐弥くんの顔面が至近距離まで接近している。 一舞 「え…ちょっ!」 逃げようと身を捩ったけど、既に近すぎて逃げ場が見つからない。 〜♪ 祐弥くんのポケットの中で、携帯電話があたしからの着信を告げている。 一舞 「〜〜〜っ!」 どうしてですか?何故なんですか…そんな雰囲気になってましたか? あたしの頭にはクエスチョンしか浮かばない。 それはたぶん、ほんの一瞬の出来事だったと思うけど、あたしにはその一瞬さえスロー再生のように感じていたくらい予想もできなかった。 祐弥 「……」 一舞 「!…!」 本当に軽く触れただけ。 まさかイトコにキスされるなんて思ってなかった…。 唇が離れても、状況が呑み込めず呆然とするあたし。 互いの視線がぶつかった瞬間、祐弥くんは一瞬目を見開いて、首のあたりまで真っ赤に染めて目を逸らした。 祐弥 「ごっ!……ごめん!」 そう言って、慌てた様子で背を向けた。 (…は?) (いや待て待て。何すかそれ?) 呆然としていたあたしの思考は急激にハッキリとした意識を戻取り戻し、気がつくと、逃げるように早足で去っていく背中を追っていた。 逃げていく祐弥くんを追うあたしの両足。 速度の上昇につられるように、気持ちが高ぶっていく。 地面を蹴り、体が宙に浮く。 きっと今までで一番の跳躍。 ドカッ!! 祐弥 「んがっ!?」 ゴッ!!! 祐弥 「ぃだっ!!?」 今まさに屋上の扉を開こうとしていた祐弥くんは、あたしの渾身の跳び蹴りを喰らい、思いっきり鉄の扉にぶつかった。 スタッ…… 静かに。そして美しく着地を決め、ゆらりと立ち上がる。 一舞 「………」 祐弥 「った!…?、!?」 何が起きたのかまだ理解できていないのか、後頭部を押さえながら振り返った彼。その姿を見下ろす角度で、一言だけ…静かに物申す。 一舞 「謝って済むか。つーか逃げんなハゲ」 祐弥 「って、えぇ〜?」 自分でも、今の自分の顔がどんな表情を浮かべているかよくわかる。 座り込んでしまった祐弥くんの目の前に仁王立ちするあたしを、少し怯えた表情で見上げている彼から、それは容易に伝わった。 一舞 「…何?…今の」 あまり睨むのも可哀相だと思い、少しだけ笑って優しく言ったつもりだ。 でも目の前の彼は、あたしがそんな事をするとは思っていなかったらしく、更に顔を強ばらせている。 祐弥 「……えー…っと」 一舞 「………」 これがファーストキスだったらどうしてくれる?…とか。そんな乙女チックな感覚にはならないのが悲しい限りだけど、とにかくあたしには、翔という彼氏が居るわけで。 だからこそ、黙って許すわけにはいかないと思うんだ。 一舞 「早く。なんか言いなよ」 祐弥 「う……っちゅーか…彼氏居るとかわかってんねんけど、体が勝手に動いてもたっちゅーか、なんちゅーか…」 一舞 「…意味わかんねーっつの」 祐弥 「…お…………俺かてわからんよ」 一舞 「……」 (わからん…ってなんだよソレ。やった本人がわからなかったら解決にならないじゃん) 祐弥 「……許せへんねやったら、彼氏さんにでも仲間にでも言うてタコ殴りにでもしたらええよ」 一舞 「………」 祐弥 「でも…ほんま…ごめん…」 一舞 「………………」 (…ん?…あれ?……なんかこんな感じどこかで見たような?) 祐弥 「せっかく仲良うなれた思たのに…ごめんな」 それはそれは見ていて可哀相になるくらいに落ち込んでしまった、あたしのイトコ。 (…もう、許してあげた方がいいのかな) あたしの怒りの感情が萎んでしまうくらいにしょんぼりと小さくなっている彼が、なんだか可哀想に見えてしまうのが困る。 (…はぁ…どうしようかなコレ) Novel☆top← 書斎← Home← |