赤髪1




―――――――――――side 祐弥

 あの部室での一件から数日。

 日常は穏やかで、俺は少し馴染んできた教室の、窓際にある自分の席でウトウトしとる。


(あれ以来一舞の顔を見てへんけど元気なったかな…)


 言うてしもた手前、なんとなく心配や。


広夢
「さっさがっきくぅ〜ん♪」





 独りセンチメンタルな俺の耳に響いた広夢の声。

 振り向けば、教室の入り口で、俺に向かって手招きしとる。


(そのキラキラ笑顔…やっぱ苦手やわ)


祐弥
「…………何?」


 重い腰を上げて広夢のそばまで近づくと、苦手なその笑顔が更に深くなった。


広夢
「慎一がさぁ…っと、慎一って部長ね。で、その慎一が、入部するなら書類書いてほしいっつーからさ」


(慎一、慎一、て何回言うねんな…)


祐弥
「書類て……そんなんお前がテキトーに書いといてくれや」

広夢
「ダーメだよ。個人情報だし、本人が書かないと」

祐弥
「…いったい何を書かされんねん」

広夢
「ん?えーと、生年月日とか、学年とか…あと連絡先とか?」

祐弥
「………普通やん」

広夢
「当たり前じゃん。バンド部は怪しい団体じゃないし」

祐弥
「…お前見とると…なんや胡散臭さ感じんねん」

広夢
「うわっ!何だよそれ〜!」

祐弥
「しゃ〜ないやん。お前の印象言うたらやっぱり胡散臭いねんもん」

広夢
「えー!」


 とりあえず、広夢の後について《慎一》とか言う部長のクラスまで移動を始めた。


祐弥
「…」

(部長て確か、見学行った時に会うたやんな?)



      ガラガラ…


広夢
「しぃ〜ん〜〜笹垣連れて来た〜」

慎一
「ん〜?………あ〜、はいはい」

祐弥
「…」

(…やっぱりコイツや)





慎一
「呼びつけてごめんね、はいコレ」

祐弥
「…あぁ」


(森…言うたっけ?フルネーム言わへんかったてことはかなり気にしてんねやろな…まぁ、そんなん今はどうでもええけど…)


広夢
「ほら、ちゃちゃっと書いちゃって」

祐弥
「押し売りか。今この文章読んでんねん。黙って待っとけや」

慎一
「そうだよ広夢。記入するかどうかも、あくまで任意なんだから」

広夢
「なんだよ二人してー!別に、結局入部するんだから同じことじゃんか!」

慎一
「いいから黙れっつーの」

広夢
「…」

祐弥
「…まぁ、だいたいの理屈はわかったけども、バンド部て金絡むん?」

慎一
「うん。一応…バンド部では働きに対しての給料が出るんだ。夜中までの仕事なんて日常だし、他にバイトも出来ないからね」

祐弥
「…へぇ、よぉそんなん学校側が許したなぁ」

慎一
「オーナーが理事長に話を通してくれてるんだ」

祐弥
「ふぅん…」


 慎一の説明に納得して、サラサラとペンを走らせる。

 これでバイトの問題も解決すんねやったら楽やし。何より楽しそうやからな。


慎一
「あ、あと、イベント時期とか急な呼び出しにも対応してもらいたいから、連絡先もよろしく」

祐弥
「…携帯でええの?」

慎一
「うん。いいよ」

祐弥
「広夢がイタ電とかせえへん?」

広夢
「なんで!つーか俺には教えない気!?」

慎一
「大丈夫。管理は徹底してるから」

広夢
「慎一まで!ひでーよもー!」

祐弥
「…了解」


 騒ぐ広夢を無視して、俺は書類を書き上げる。

 なんとなく、慎一なら信頼できそうな気がして安心したからや。


 書き上げた自分の文字を一つ一つ確認しながら、これからはいつでも一舞の歌う姿が見れる…そう思ってちょっとウキウキして来る。


 何でなんやろな…。





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