波紋12




―――――――――――side 涼


「翔くん、戻ったな」


 部室から出ると、見張りをしてくれていた照がまだそこに居た。



「あぁ…」


「もういいのか?」


「ん。あとは女子だけで話したいってさ」


「…あっそ。じゃあ俺らも戻るか」


「あぁ…」


 一舞は…『翔を呼んでくれてありがとう…』そう言って、まだ半分泣き顔のまま笑って見せた。

 ここからは、もう少し落ち着くまで、香澄と由紀ちゃんが付き添って部室に残るって言うから、由紀ちゃんに鍵を預けたまま教室に戻る。


 階段を降りて、練習棟を出て、中庭で照と別れた途端に足が重くなった…。


(…俺はあんな風に、一舞の弱いところを見るなんて事…無かったな)


 考えてみれば、いつも俺に気ぃつかって、笑ってる一舞しか見たことが無かった。





 相手が変わるだけでこんなに違うのか…。


 昔から翔くんは完璧で、頼りがいがあって…そこを超えようなんて考えた事無かったけど…なんて。

 もともと無い自信がマイナスになっていく。

 まるで魂が抜けていくような脱力感……もうとっくに終わった事なのに、友達として付き合うのはやっぱりキツいもんだな…。





 ゆっくりと、足取り重く教室に戻ると、とっくに次の授業中。

 視界に入った美樹の顔が、まるでかわいそうな奴を見るみたいな表情になっている。

 数学教師は相変わらず、俺には何も言わない。

 何も言わないからなんとなく、今は余計に、ナメた態度になってしまう。



「遅れてすんませ〜ん」


 ため息混じりに、馬鹿にしたように、謝る気の無い《すいません》なんだけど。


教師
「…あ…あぁ……気をつけなさい」


「…」
(…そんだけかよ)


 おかげ様でちょっとイラついて、ガタンと音を立てて乱暴に席に座る。すると、ケツのポケットに入っているケータイが震えて、美樹が目線を投げてきた。

 ビクビクしている数学教師に構いもせずケータイを開くと、美樹からのお叱りメールが届いていた。



『八つ当たりしないの!』



「……」
(はいはい…そうっすね…)



『…つかお前なんか洋とイチャイチャしてりゃ良いんだよ。俺の事なんかほっとけ』



 …そう返事を打って送信。


(あぁ…!俺ってばなんて嫌な奴!)



「…はぁ〜ぁ……」


 ケータイを再びケツポケットにしまうと、デカいため息が声になった。


 次の瞬間。


    バサッ!



「!…いってぇ」



(…あ)


 美樹の数学の教科書が飛んできましたけど…。


美樹
「………」


「!!」

(あ…怒ってらっしゃる?)


 怖いよ美樹ちゃん…





prev * next

Novel☆top←
書斎←
Home←


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -