波紋10




―――――――――――side 蓮

 昨夜感じた悪い予感の正体は、今のところ不明だ。しかし、昇降口で靴を履き替えながら、やはり今日もスッキリとしない気分を持て余している。


 三年の教室では、誰もが自分の事で精一杯。言ってみれば俺もその一人だが、一先ず進路は決まっているから問題ない。

 今日はその進路の件で用事があって、遅れて登校したんだが…美樹や洋の不自然な様子を目にしてしまったために、何かあったらしいと予想している。



「……」
(それにしても…)


 あの赤髪。なんて顔で廊下を歩いているんだ…。


 職員室に向かう俺の足を、予想外に止めたのはあの笹垣。

 まるで怒っているような、それでいて傷ついてもいるような、色んな感情が混ざった表情で…しかも感情が高ぶっているのか、その顔が若干赤らんでいる。



「おい、貴様」

祐弥
「!………あぁ……なんですか?」


「…」


 物凄く嫌な顔をされたが、そんなことはどうでもいい。



「とりあえず聞くが…何かあったのか?」

祐弥
「………てか…おたくは此処に居ってええんすか?」


「………ハァ…また、質問に質問で返すのか。面倒な奴だな」

祐弥
「涼さん達…1人の女の為に部室に駆けつけてますけど、アンタは行かへんのですか?」


 涼…?…一舞絡みか。



「………へぇ……なんなら金髪のアメリカンな男もそこに居たんじゃないのか?」

祐弥
「………」


「…だったら俺はパスだ」

祐弥
「はっ……なんや。何を差し置いても飛んで行くんか思てたのに…アンタ冷たいな」


「必要か不必要かがわかるだけだ。…で?…お前は何をしている?」

祐弥
「やってられへんかって…フェイドアウトさしてもろただけですよ…」


「………なるほど」


 なんだ…拗ねてるだけか。


祐弥
「てか…アンタも、あの2人がつき合うてるのん知ってたんやな…」


「当たり前だ。認めちゃいないけどな」

祐弥
「……俺がバラしたらどうします?」


 …バラす?



「…そうしたいなら好きにすればいい。俺には関係のないことだ」

祐弥
「…は?仲間ちゃうん?あり得へんなアンタ」


「ふん。お前も本気でバラすつもりなら、既にそうしているはずだよな」

祐弥
「………」


「…バラすつもりなら…言葉を選ぶ必要も無いはずだが?」

祐弥
「…………」


「……貴様…いったい何をしに来た?」

祐弥
「は?」


「一舞とは親戚だと聞いた」

祐弥
「……まぁ…そんな感じですね」


「……だが、誰を頼るわけでも無い。何か目的を示すわけでも無い…一舞にも知られていなかった…」

祐弥
「………」


「…なぜ此処に居る?関西から遥々、何をしに来た?」

祐弥
「………アンタに説明する義理は無い」


「………まぁな…だが」

祐弥
「……?」






「一舞に何かする気なら…覚悟しておけ」

祐弥
「………」


「………」

祐弥
「………………何もせぇへんわ……」


 そう言って笹垣は、俺に背を向け去って行く。

 アイツが何に苛立っているのかなんてどうでもいい。

 とにかく今は、一舞の傍に、翔さんがいる。

 俺が出る幕じゃないのはよくわかっている。

 俺は俺の決めた道を行くだけだ…。


 だがもしもの時は…



一舞を必ず守ってみせる。





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