波紋5




―――――――――side 祐弥――――[橘邸]――――


「皆さん元気にしてるか?」

祐弥
「……はぁ。祖母ちゃんは最近、膝が痛い言うてますけど…みんな元気にやってます」


「…そうか」





 俺の目の前には、一舞のおかんが座っている。

 弥生さんとか言う人が連絡したらしいけど、なんで俺…一舞の家に連れて来られてんねん…。


祐弥
「…」
(つーか…この人はいつ会うてもビジュアルが変わらんな。ほんま年齢不詳や)


「……デカくなったな。一舞とは1つ違いだったか」

祐弥
「……はい。そうですね」


「……で?…なんだって急にコッチに来たんだ?」

祐弥
「…」
(その理由、聞きたいんか…ほんならこの際や。言いたいこと言わさしてもらおか…)

祐弥
「………会うてみたかったからです」


「……?」

祐弥
「俺、祖母ちゃん子やから。華さんが送ってくる写真…よう見てたんで」


「あぁ……そうか。……まぁ、戸籍には無いとは言え孫には変わりないからな。せめてもの救いになればと思って送ってきたが…お前がそれを知ってたとは」

祐弥
「……なんで祖母ちゃんに、顔見せたってくれへんのですか」


「………説明が難しいだろ?本人にも、それを受け入れる準備が要る」

祐弥
「……もう、ガキやないはずです」


「…まだガキだよ」

祐弥
「祖母ちゃんは…華さんが、いつか一舞を連れて来てくれはるんを待ってますよ」


「……わかってる」

祐弥
「それに……俺かて叔父さんの事、そんなようけ知ってるわけちゃうけど…祖母ちゃんから色んな話聞いて育ってきたから憧れてます。せやのに、その人の実の娘が何も知らされてない言うんはおかしい…一舞に、ちゃんと教えたってください」


「………」

祐弥
「それとも華さんは…一舞を祖母ちゃんに会わせるんが怖いんですか?」


「…どういう意味だ?」

祐弥
「篠原家の血を継いでるんは、ここでは一舞だけやし。華さんは戸籍にも入ってへん。祖母ちゃんに…一舞を盗られる思てませんか?」


「…考えなかったと言えば嘘になるが…それは無いな」

祐弥
「そうです。祖母ちゃんは単純に、一舞本人に会うてみたいだけや…」


「………そうだよな」


 一舞のおかん…華さんは、ひどく困った顔をして黙ってしもた。

 なんちゅーか今の俺は、まるで祖母ちゃんの代弁者みたいなっとるけど…まぁええわ。

 とりあえず言いたいことはまだあんねんから。


祐弥
「一舞のライブ…観たことありますか?」


「……いや」
祐弥
「……俺も見損ねました…せやけど、リハは観れました」


「……」

祐弥
「あのレスポール…叔父さんのですよね?」


「………あぁ」

祐弥
「祖母ちゃんが、華さんに預けたモンですよね?」


「………そうだな」

祐弥
「華さんの言うところの一舞は…何も知らんガキなんやないんですか」


「…………」

祐弥
「せやのに、あのレスポール…触らすんですか?祖母ちゃんがどんな気持ちでアレを預けたかわからへんのですか」


 何もわからんガキが玩具みたいに触れるモンと違うねん。

 それをこの人かて、わからんわけやないやろ。

 けど…言わな気が済まんねん…。



「……わかった。だったらお前から話せばいい」

祐弥
「……は?」


「せっかくコッチに編入してきたんだ。だからお前に任せてやるって言ってるんだよ」

祐弥
「……」


「ほら…帰ってきたみたいだぞ」


 そう言って華さんが指差した窓。

 室内には微かに車のエンジン音が聞こえている。

 俺はソファーから立ち上がり、カーテンの隙間から外を見た。


 白い車…その右側のドアから降りてくる一舞…。



「…彼氏が送ってくれたみたいだなぁ」

祐弥
「な…何がガキなん!?車持ちの男とつき合うてるやないすか!」


「ははっ、まぁお前が思うより進んではないと思うけどなぁ」

祐弥
「なっ」
(何の話やねん!真面目な話しとったのにイキナリ下ネタぶっこんでくんなや!)


「ん?何考えてるんだ?」

祐弥
「べ、べつに…てかそのブラックな薄ら笑いやめてもらえませんか?」


「何が?くくっ、つーかお前の本当の目的は、あたしの想像であってんのかな?」

祐弥
「……っ」


「一舞は難しいぞ。例えば押し倒しても効果は無いだろうな」

祐弥
「だ、だから何の話やねんて」


「ふふっ図星か。分かり易い奴だなぁ」

祐弥
「……俺で…遊ばんといてください」


「べつに遊んでるわけじゃねーよ。それよりお前、一人暮らしに不便は無いか?」

祐弥
「……平気ですよ。一人なんか慣れたもんです」


「…そうか」


 突然、母親のような笑顔で微笑む華さんに少々驚きながらソファーに座り直す。



「……そんなに周りを警戒するな」

祐弥
「…」
(警戒なんか…してへんよ…)



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