波紋1 照 「あっちー!」 畳の上に寝転がりながら、照ちゃんが裏返った声を発した。 ライブ終了後の控室。未だ冷めない興奮が、ハシャぐ声を大きくする。 洋 「あの熱気はヤバかったね。夏だっつーのにバカばっかだなー。あははっ!」 一舞 「ヤバいマジ楽しかったー!」 涼 「あー…ハッチャけすぎて喉やべー…」 蓮 「…俺も」 《Babies'-breath》の御披露目ライブは、綾のプロモーションのおかげで超満員。その盛り上がりは過去最高と、オーナー代理からの称賛を貰えるほど大成功に終わった。 そんな達成感と興奮冷めやらぬあたし達は、お客が出払うのを待つ間、一旦控室へ引っ込んだ。 蓮 「…ほら」 一舞 「え…?」 突然、目の前にタオルらしき何かを差し出され、少し驚いた。けれど…それが蓮ちゃんからのレディーファーストだとわかると、笑顔で突き返す。 一舞 「あたしは最後でいいよ。まだ機材の片づけとかあるし」 蓮 「……」 洋 「そんなん今日くらいサボったっていいじゃん」 一舞 「ダメだよ。学ちゃんとの約束だもん」 洋 「っはー、まっじめなんだからもー…蓮くん、残念だったね。でも君の優しさはしっかりとポイント還元されてるはずだよ。なんつってー!はっはー!」 蓮 「…まったく、煩いやつだな貴様は」 一舞 「ごめんね、ありがと」 蓮 「構わない。…仕事が終わったらすぐに入れるようにしておく」 一舞 「あっは、ありがとー」 なんですかね?まるで旦那の帰りを待つ妻みたいなその段取り。 あたしが笑うと、蓮ちゃんは少し照れくさそうにしながら顔を背けてしまった。声が出しづらいせいなのかそれ以上は何も言わず、振り返りざまに照ちゃんを蹴り上げる。 照 「いってー!なんだよ蓮!!」 蓮 「後が閊えている。さっさと支度を始めろボンバヘッド」 照 「っはぁ!?…もー…勘弁してくれよ」 元々の温厚さからなのか、疲れているからなのか、蹴られてもそれほど怒る気配のない照ちゃん。攻撃を仕掛けたはずの蓮ちゃんは、既に興味を無くしたかのようにソファーに腰を下ろした。 涼 「あ、じゃぁ俺先に使うわ」 そう言ってソファーから立ち上がり、涼ちゃんはシャワー室へ向かう。 涼 「…一舞」 一舞 「ん?」 シャワー室の扉に手を掛けたまま、真剣な表情で名前を呼ぶから、いったいなんですか?とこちらも真面目に視線を返すと… 涼 「…覗くなよ?」 一舞 「………は?興味無いし」 涼 「いや、せめて興味は持てって」 掠れた声でひゃっひゃと笑いながら「可愛くねー」と一声叫ぶと扉の向こうに消えて行った。 一舞 「なーんすかアレ。ふはっ」 洋 「構ってほしいんじゃね?くふふ」 あたし以外の四人は部活引退組だから、そのままシャワーを浴びたりして帰る準備をするだけだ。あたしだってそりゃあ、蓮ちゃんの優しさに乗っかりたかったけど仕方ない。 約束は約束。学ちゃんが不在だからって無かったことにはならないのだ。 観客が全て帰ったのを確認し、あたしは再び部員の1人に戻ってステージ上の機材を片付ける作業に取り掛かった。 …………… ……… … 数分後。 片付けが終わってステージ裏の控え室に続く廊下を歩いていたら… 広夢 「一舞!お疲れー!」 背後から走り寄ってきた広夢くんが、スポーツドリンクを手渡してくれた。 一舞 「わぁ!ありがとう!」 広夢 「スゴかったよステージ!俺マジ感動した!」 一舞 「ありがと。てかみんな頑張ったもんね」 広夢 「うん…でさ…俺ね?」 一舞 「ん?」 急に広夢くんの表情が変わったかと思ったら… 涼 「一舞〜」 涼ちゃんの呼ぶ声が聞こえてきた。 広夢 「げっ!」 一舞 「はっ?」 (何すかその反応!?) Novel☆top← 書斎← Home← |