始動13




 翔が来てくれた。

 透瑠くんも来てくれた。

 あたしは嬉しくて、勢いで涼ちゃんの方を見た。

 涼ちゃんは照れくさそうに笑っている。

 あたしは再び入り口付近にいる2人に目線を戻す。


(透瑠くん…遠目だけど、変わってなく見えて安心したよ…)


 リハ終わったら話せるかな…

 翔の近くに行ってもいいかな…


 なんだかフワフワした気持ちで集中力が欠けてくるから、チラッとコードを間違えました。


(あぁっ!あたしのバカ!)


……………

………




慎一
「オッケーで〜す!」


 リハは順調に終了し、あたしはそのままステージを飛び降り、2人の許へ走り寄った。


透瑠
「一舞ちゃ〜ん!ひさび〜!」

一舞
「ホント久しぶりだよ透瑠くーん!」





透瑠
「えへへ〜、涼から招待されちゃったんだ〜」

一舞
「涼ちゃんが?良かったねぇ〜!」


 まるで女子同志の再会のようにハシャぐあたし達。ふと視界に入った翔の方へ向くと…



「俺は付き添い」


 何も言ってないのにガッカリさせられる。


一舞
「あー…、付き添いですかぁ…忙しいのにわざわざありがとうございます。藍原センセ〜」


「…お前まだ怒ってんのかよ」

一舞
「別に怒ってませんよ」

透瑠
「センセ〜わ素直じゃないからねぇ。許してあげてよ一舞ちゃん」


「………」

一舞
「…」
(あ、拗ねた)


 なんだよ。萌えるとか言うから先生って呼んであげたのに…なんて、ちょっと意地悪だったかな。

 相変わらず顔に気分がモロ出しなのね、あたしの彼氏。

 こんな姿を見ていると、出会った頃の無表情をどうやって作っていたのかと不思議で仕方ないよ。


一舞
「…最後まで観ていってくれる?」


「……まぁ…付き添いだからな」

一舞
「………可愛くない」


「……………ごめん」

一舞
「………」


 何が《ごめん》なんだかよくわからないけど。でもまた、こうして近くに来てくれて嬉しい。

 あたしは、さっきまで使っていたピックをそっと翔に手渡した。



「………」

一舞
「来てくれてありがとう」


「………あぁ」

一舞
「…頑張るからね」


「………」


 翔は無言で、少し切なげに、あたしの頭を撫でてくれた。


一舞
「…そんな顔しないでよ」


「……バーカ…察しろ」

一舞
「…へ?」


 少し困ったような、照れたような反応をする翔を不思議に思っていると、透瑠くんがそっと耳打ちしてきた。


透瑠
「(本当わチューしたいんじゃない?可愛いから)」

一舞
「!!」


 その言葉にあたしの体温は急上昇する。

 きっと今タコみたいに赤くなっているであろうあたしを見て、満足そうに笑っている透瑠くん…。

 ホントそういうの…やめてください。



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