始動12 ―――――――――――side 一舞 (うぅ…なんか変に緊張してきた…) ステージへと続く階段の前に立ち、生まれて初めての緊張感に立ち尽くしている赤髪のあたしですけども。 一舞 「………」 (あの笹垣って人…もし入部してきたとしてら、他のみんなと同じように仲良くできるかな…) (つーか、見学してるんだっけ…) 理由とかはよくわからないけど、なんとなく…由紀ちゃんが言うように怖い気もする。 何が…っていうのは具体的に出てこないから、あまりそう思うのは良くないんだけど。っていうか…得体が知れない感じが怖いのかな…やっぱ…。 あの赤い髪も、関西ってポイントも、何か…あたしの知らない何かが動いている気がして…。 (あぁ…翔に会いたいな…) 一舞 「…………!」 (あー!ダメダメ!何今の!?) パンッ!!! 弱々しい自分の心を叱咤するかのように、両頬に手を当て、思い切り叩いた。 一舞 「っっ!!!!!った!」 まったく自分の馬鹿力を恨む。何だ今の。めっっっちゃ痛い!! 涼 「……何やってんだ?」 一舞 「!…な、なんでもない」 不思議そうにあたしを見ながらその横を通り過ぎ、ステージへの階段を上る涼ちゃんを、自ら強打した両頬を押さえたまま見つめる間抜けなあたし。 考えたって仕方ない。自分のやるべきことをやるだけじゃん。 せっかくの舞台だ。楽しまなくちゃ。 意を決してステージに上がる。 既に上手(かみて)にスタンバイしていた洋ちゃんからの微笑みを受けて隣に立つ。 ママから貰ったお気に入りのレスポールとアンプを繋いでスイッチオン。心地いい重みが肩に伝わって、徐々に気分が上がる感覚。 洋 「その子の調子どっすか?」 一舞 「もちろん、いい感じだよ」 そう答えてから、ペダルを踏み、弦をハジく。 一舞 「ふふっ」 (やっぱりこの子の音、好きだな) 洋 「ふはっ、一舞がデレた」 蓮 「いつもの事だ」 慎一 「じゃあとりあえず音確認しま〜す!」 部長の合図で軽く演奏を始める。 本番での曲順通り、あたしの曲から。 同時に入りのタイミングや位置確認、照明の強さや角度、ステージの演出を細かく確認する。 翔に連れられて、久しぶりに此処に来た時。独りカウンターで眺めていた景色。今はその中心に居る。 (翔にも観てほしかったな…) ちょっとキツめの光に目を細めながら客席の方を見ると、由紀ちゃんと綾が並んで見学している姿を最初に確認。 (ふふっ、ていうか仕事は大丈夫なんですかね?) きゃっきゃと声が聞こえそうな2人の姿。あんまり可愛いものだから、歌いながらちょっと煽ってみたりする。 綾 「キャァー!一舞ー!」 由紀 「!!!」 テンション高めに応える綾とは対照的に、やっぱり由紀ちゃんは真っ赤になって固まってしまった様子。 そういえば、こういう姿を彼女に見せるのは初めてだ。 慎一 「ちょっ、綾、お前の声の確認してんじゃないんだから…」 綾 「なにさー」 慎ちゃんに怒られている様子の綾たちから向こう。店の入り口付近を見やると、美樹ちゃんがまるで純くんの代わりみたいに立っている。 手を振ると、まるで女神かと見紛うような仕草で応えてくれた。 (やば…惚れそ。なんつって) 段々とエンジンが温まってきたあたしの声は、きっといつもより伸びているだろう。両耳と背後から後押ししてくれる音達も、そのテンションの高まりを知らせてくれる。 まだリハーサルだというのに抑えが利かないあたし達は、戻ってくる事の出来たこの景色の中できっと、今までで一番いい音が出せているだろう。 (本番はもっとすごいけどねー。ふふ) そして。最後の曲の確認が終わろうかという頃。 遅れて入ってきた金色の髪… 一舞 「!」 (…え?) 後から続くようにして入ってきた銀色の髪… (金色と銀色…翔と透瑠くんだ!) 来てくれたんだ! Novel☆top← 書斎← Home← |