始動10




 一舞とデカい男が別室に入って行ったあと、再び涼さんと2人になった。

 次々と、同じ制服の人間が集まっていく店内。準備に追われる騒がしい声や物音から、少し離れたカウンター。

 俺はなんとなし確認してみることにした。


祐弥
「……涼さんの元カノって…」


「…あぁ…さっきの…つーかお前…抉るよね」

祐弥
「や、別にそういうつもりやないですけど…」


「いいけどよ、別に」

祐弥
「…さっき彼女と一緒に居ったんが今カレですか?」


「あ、違う違う。アイツは片思い」


 そう言うと涼さんは、思い出したかのように肩を揺らして、笑いをかみ殺しているような素振りを見せた。


祐弥
「……っ!」

(つーか片思いて…!何ちゅーセンチメンタルやねん!デカい図体して乙女か!)


 これは衝撃事実や。あの堅物の弱みでも握った気分やで。


由紀
「お疲れ様で〜す」

祐弥
「!」


「あ、今の内緒な」


 なんや場違いな女子が入って来よったのを確認して、涼さんは「シーッ」というジェスチャーを俺に向けた。

 無言で了解したものの、この驚きはそう簡単には消えへん。困った…。



「由紀ちゃんお疲れ」

由紀
「はい。先輩、早いですね」


「暇もて余しちゃってさぁ」

祐弥
「……」
(この子も部員なんや…他の子らと比べるとずいぶん地味子やな…)


「あ、コイツ今日、見学するらしいから覚えといてね」

由紀
「あ…!……はい……」

祐弥
「…ん?」
(え?なに?なに?)


 可愛らしい笑顔で涼さんの言葉に応えていた筈の地味子は、俺を紹介されるや否や、眉を八の字にして焦り出しよった。



「何?由紀ちゃんもコイツ知ってんの?」

由紀
「…はい今朝…蓮先輩とちょっと」


「ふぅん……まぁいいや。今日はよろしくね」

由紀
「はい」


 そう返事をすると店の奥へと消えていく《由紀ちゃん》言う子。見れば見るほどホンマ場違いや。


祐弥
「……」
(…あんな地味子居ったかな)


「てかお前…今朝何したの?」

祐弥
「え、何もしてないっすよ…ただあの人らが通路塞いどったんで、どけろや言うただけです」


「ほぉ〜…なるほど。お前もたいがい血の気多いんだな」

祐弥
「…いやいや、俺なんか大人しいもんですよ」


「ははっ。まぁハッキリものが言える奴じゃなきゃウチじゃやってけねーからな」


 そう言って笑う涼さん。女っぽい顔してんのに、雰囲気はなんとなし大人っぽくて男って感じや。



「おっつ〜」

祐弥
「!」


「あ。洋おせーわ〜…美樹ちゃんも〜」

美樹
「アンタが早すぎるんじゃないの?」


「うん、まぁ…部長降りてから暇なもんで」


 新手のバカップルか…フワフワの茶髪を揺らして店に入ってきたデカイ男。その隣には…《美樹ちゃん》とか言う可愛いヒト。


(正統派美人やな…)


 とか思て見てたら…「キミ誰くん?」と、超至近距離に近づいた顔面が話しかけてきた。


祐弥
「…えっと…笹垣っす」


「はいはい近いから」


「だってこの子、絶対いま美樹のこと可愛いって目で見てたもん」

祐弥
「せやかて実際可愛いやないですか」


「まぁそうだな」


「でもダメだよ笹垣くん。美樹ちゃんは俺のだからね」

祐弥
「……」
(いや、見ればわかるがな)

美樹
「くっだらない事言ってないで準備しなさいよ」


「くだらなくないよ〜!だってこれから、この子と美樹は数時間二人きりになんだから」

祐弥
「なんもせぇへんし」

美樹
「綾も居るじゃない」


「呼びました?」


「うおっ!いつの間に!?」


「今来たとこっすよ。あ、見学さんこんにちわ」

祐弥
「……」
(…なんやキャラ濃すぎてついて行かれへんな)

 

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