始動5




 HRが終わって解散になり、あたしは1人教室を飛び出す。


 職員駐車場には翔の車があった。だからまだ学校に居るはず。

 玄関に向かう人の流れに逆らい、アチコチ校舎を走り廻る。

 最後に軽音科の校舎にたどり着いて、長身のブロンドを探した。


 軽音科の廊下の壁には相変わらず派手な手作りポスターが並び、未だにバンド部部長選挙のミスコン写真なんかも貼られている。それを横目に見て通り過ぎ、ただ翔を探すあたしは何時になく必死だ。

 というかそこは無理もない。合宿明けから電話もメールも無いまま、言葉は悪いけどそれは放置同然の状態だった。それが突然会えたのだから、当然必死になったっていいじゃないか。

 そんな興奮気味の気持ちを抑えながら、ちょっとした影も見逃すものかと目を凝らし、神経を研ぎ澄ませる。

 次の瞬間。

 廊下から見える中庭にブロンドを発見。

 急いで中庭に出て、ぼんやりそこに佇んでいるブロンドに近づき



「は!?」


 その腕を掴んで連れ去る。


 軽音科から中庭で繋がった練習棟。その階段を、翔の腕を引いたまま駆け上がり、部室のドアを開く。



「おい、ちょっと」


 困っている翔の声を無視して、部室の中をグルグルと隅から隅まで見回し、誰も居ないことを確認。ようやく翔の顔に目を向けた。



「…ったく」


 困りながらも優しく微笑んでいるその顔は、なんだか違う人みたいだ。

 長かった髪は短くなって、変装のつもりなのか雰囲気なのか黒縁のダテメガネなんか掛けてるし…。

 そんな先生バージョンの翔がちょっと面白く見えてくるから困る。



「…あんまりこういう事したらダメだろ」


 微笑みながら優しくそう言うけど、あたしの気持ちわかってるのかな…。


一舞
「…忙しいのはわかってるよ」


「…あぁ」

一舞
「…メールなんてあたしが勝手に送ってるだけ…」


「…ごめんな」

一舞
「…でもどうして此処に居るの?」


「……」

一舞
「レコーディングは?デビューするんだよね?こんなとこに居て大丈夫なの?」


 とにかくあたしには今の状況が理解できない。

 デビューするためにレコーディング合宿しているはずの翔が、先生として学校に来ているこの状況が…。

 あたしはたたみかけるように問い質す。けど翔は、そんなあたしをただニコニコと見つめているだけ。

(……ちゃんと説明してよ)



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