始動2




 学校に到着して自分の教室へ向かう途中、軽音科への分岐点で立ち話をしている馴染みの顔を見つけた。

 夏休み中、部活以外では全然会わなかったけど、ずいぶん髪が伸びて可愛らしくなった由紀ちゃんと。いつもの仏頂面ではあるけど、優しげな雰囲気で彼女に応えている様子の蓮ちゃん。

 微笑ましい光景だ。


香澄
「てか蓮くん…変わったよね〜」

一舞
「……」


 確かに。

 女の子とあんな風に話す蓮ちゃんを眺めるなんて珍しいことだ。でも蓮ちゃんが変わったと言うよりは、彼にとって由紀ちゃんがそれだけ特別なんだとあたしにはそう見える。


一舞
「おはよ〜」

香澄
「おはよユッキ〜」

由紀
「あ、一舞ちゃん、香澄ちゃん、おはようございます」


 あたし達に応える由紀ちゃんの声は、電話で話した時も思ったけどなんだか自信が溢れている。それだけ、蓮ちゃんやあたしが居ない部活は、彼女にとってプラスになるものだったんだろう。


一舞
「蓮ちゃんも、おはよ」


「…あぁ」

香澄
「ねぇねぇ何話してたのぉ?」

由紀
「今夜の部活の話ですよ」

一舞
「それだけ?なんか凄く楽しそうだったのに」


「それだけだ。それ以外に何がある」

香澄
「蓮くん。眉間にシワ」

一舞
「そんな顔することないじゃん」


「…お前が、おかしな詮索をするからだ」

香澄
「口調が堅苦しいなぁ…相変わらず。てか実はテレてたりして〜」


「………」

一舞
「あ…黙った」

香澄
「図星?」


「………ふん。そういえば香澄」

香澄
「なんですかぁ?センパ〜イ」


「…夏休み中暇だったようだな。ちょっと見ないうちに太ったんじゃないか?顔が丸いぞ」

香澄
「う…気にしてることを」


「チビはちょっとでも太ると目立つからな…気をつけないとなぁ」


「れ〜ん〜、俺の香澄ちゃんはこの位が一番可愛いの!わかる〜?」

一舞
「あ、照ちゃんおはよう」


「おっす〜」

香澄
「はぁ、やっと来た…」


「お前…また香澄に置いてきぼりにされたのか」


「まぁね…てか眠いじゃん…朝は」

一舞
「ふふっ」


 なんだかんだ言ってもやっぱりみんなと居ると元気が出てくる。

 寝起きでまったりした雰囲気の照ちゃんが登場し、和むあたし達その背後から突然…


??
「…邪魔やなぁ」


 聞き慣れない声が響いた。



??
「通路塞がっとんねん…どけや」


 すごく不機嫌な関西訛り…あたしは慌てて道をあけようと振り返った。


一舞
「あ!ごめんなさ……?」

(…え)


??
「…あ」


 振り返るとそこには、あたしと同じような髪の色をしている見知らぬ人が立っていた。

 なんだか驚いた顔をしているけど、あたしとしてもこんな出会いは初めてで、少し驚いてる。



「……貴様…見ない顔だな。誰だ」


 驚いているあたしの前に乗り出し、蓮ちゃんが言った。


??
「は?…いきなりなんやねん…アンタ何年?」


「俺の質問が先だろ」

一舞
「あ…」

(蓮ちゃん蓮ちゃん!喧嘩はダメだよ!)


 そう思いながら、ズイズイとあたしの前に身を乗り出す蓮ちゃんのシャツを軽く引っ張る。



「……」


 あたしの制止に気づいて蓮ちゃんは止まってくれたけど…


??
「…こっちは朝っぱらから足留めされてイラついとんねん。どけや」


 まるで怒りを煽るように、その人は蓮ちゃんを睨み上げる。


一舞
「……」

(…感じ悪いな)





一舞
「それはさっき謝ったよね?てかこの人は三年、あたしは一年。質問に応えたんだからアンタも答えてよ」


 あたしがそう言うとその人はあからさまにムッとして渋々答えた。


??
「俺は笹垣や。今日からここの2年生…後輩は後輩らしい口利けや」

一舞
「…たった一年しか変わらないのにずいぶん偉ぶりたいんだね、かっこワル」

笹垣
「なんやとコラ!」


「お前らその辺にしとけよ…」

笹垣
「あ?」


「威勢がいいのは良いけどよ…朝っぱらから女相手に熱くなんなよお前」

笹垣
「……」


「今回は俺らが悪かったよ…急いでんだろ?」

笹垣
「…話通じる奴おるんやん」


「…早く行け」

笹垣
「…どうも」


 照ちゃんに促されて道を開けると、笹垣って人は軽音科の校舎に向かって行った。



「蓮も一舞も気が短すぎだ」

一舞
「…ごめん」


「…ふん。貴様こそ何様だ」


「照サマだ」


 それにしてもあの笹垣って人の目…なんだか今まで感じたことの無い気持ちになった。

 ……なんなんだろう?




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