想いの行方





「…お前まで、美樹を泣かせることは無いだろ」



「…お前がアイツを泣かすな」





「……」

(2人して同じような事言いやがって…双子かっつーんだよ)









(…あ…そういえば、母ちゃんに何も言わないで出て来ちまったな)



(つーかケータイ、また忘れたし…また財布がねーし……どんだけだよ俺)



 なんて、どうでもいいことを考えながら辿り着いた美樹のマンション。



    ピンポーン…




「…………」




    ピンポーン…





「…………」

(出ないな…仕方ない)



 持っていた鍵でドアを明ける。



      ガチャ…



     ギィ………




「…………美樹?」



 ドアを開いて呼んではみたものの、中から返事は返ってこない。

 とにかくこのまま帰るわけにはいかないし、ちょっとした不安を抱きながらも、勝手に部屋に上がった。



「…………」



 玄関から入ってすぐの、見慣れたダイニングキッチン。

 曇りガラスの格子戸を挟んだ向こうに、美樹がいるはず。



    カラカラカラ…




 美樹は大丈夫なのか。もしかしたら、何か事件に巻き込まれたりしたんじゃないのか。

 部屋の雰囲気の違いに、大きな不安がよぎり始め、背筋に冷たいものを感じながら曇りガラスの格子戸を引く。





「!!」



 踏み込んだそこには、真っ暗な部屋の端に置かれたベッドにもたれて膝を抱えている、美樹の姿があった。



 少し躊躇いながら近づき、その目の前に座り込むと、声をかけてみる。



「………美樹?」

美樹
「……」


「……美樹…大丈夫?」

美樹
「………鍵……どうしたの?」


 俺の声にピクリと反応して肩が揺れる。そして…顔を伏せたままで、不機嫌な声が返ってきた。



「……涼から、返してもらった」

美樹
「………」


「………」



 …ここからどうする?

 結局なにも決まってない状態で此処に来たんだ。どうすればいいかなんてわからない。



「……美樹…顔見せて?」



 俺がそう言うと、美樹は少し躊躇いながら、黙って顔を上げた。




「!…」



 その…泣きはらした顔を見た瞬間、俺は、込み上げてくる感情を抑えられなかった…。























??
「おはよう。ねぇ……起きて?」


「……………」


 耳元に、柔らかな声が響いて静かに目を開ける。

 視界いっぱいに広がる白い天井と…


美樹
「…おはよ」


 微笑む美樹の顔…。



「…おはよう」


 ゆうべ…感情が押し寄せるまま美樹を抱きしめた……のは俺なんだけど。

 改めて思い返すと、不安になってくる。


 本当にこれで良かったのか?


美樹
「…ん?」


「…………」


 俺たちはまだベッドの中で、互いに顔を見合わせているだけ…。


 俺の顔を、頬を赤らめながら見つめてくるから、ちょっと恥ずかしいけど、美樹はどうなんだろう?



美樹
「…なんか、照れちゃうね」


「…うん……てか…平気?嫌じゃなかった?」

美樹
「……」


「ごめん……俺…」

美樹
「…嬉しかった」


「…………」

美樹
「…すごく…幸せだよ」


「……………美樹…」


 そんなことを言われたら俺、なんか泣きそうだ…。


美樹
「ふふふ…だって、洋ってばずぅ〜っと『好きだ』って言ってくれてたんだもん」


「!!」

美樹
「だから、嬉しい。ふふふふ」


「…ちょっ……ハズいって〜」

美樹
「…もっと言ってほしい」


「………いつも聞き流してたくせに」

美樹
「…うん…今まで私…可愛くなかった」


「……」

美樹
「私ね?当たり前だと思ってたの。洋がそう言ってくれることも隣に居てくれることも、日常だと…勘違いしてた」


「……」

美樹
「離れることが、どんなに辛いのか、知らなかったから」


「……」



 俺は何も言えず、美樹の頬に触れた。

 美樹はその手の平に、柔らかな唇を触れさせてくれる。



「……わかるよ」

美樹
「……」



 ずっと願っていたこんな瞬間が、今までに無いくらい、俺の胸を高鳴らせる。

 溢れそうなくらいに湧き上がる気持ちが、そっと美樹にキスをすると蒸発していく。

 これが正解なんだと言うみたいに、何度も、何度も…






美樹
「…ずっと、一緒に居てくれる?」


 おでこをぴったりと付けたまま、美樹が言った。


 俺にはもう、迷いは無い。



「…うん…ずっと一緒に居よう」



 美樹が望んでくれるなら、俺はいつまでもその手を離さない。





 決めたよ。


 だから絶対、幸せになろう…。






 大切な美樹と、ずっと一緒に笑い合える未来。

 そんな将来の話を、初めて2人で語り合った。



 美樹の笑顔を守るためなら何だって出来る。


 俺…頑張るよ。




――――――substoryA


《斉藤 洋》編



to be continue…




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