慈愛3




 夜8時。今夜も部活はある。

 だけど、《Babies'-breath》の一舞以外のメンバーは、夏休み明けの御披露目ライブまでとりあえず休みってことになっているため、やることも無いし、行く気にさえならなくて、風呂上がりに自分の部屋でダラダラと考え事をしていた。


 今頃美樹は部活に出ているだろう…。



「……」


 まさかこんな事になるなんて思ってなかった。

 そりゃ…もし付き合えたら幸せだな…ってずっと思っていたし、涼じゃなくて俺だと言われた瞬間、確かに嬉しかったんだ。

 なのに、まだ答えが出ない。何をどう考えたらいいのかさえ、わからなくなってくる…。


〜♪♪♪〜♪♪♪



「?…」


 グチャグチャと考え込んでいた俺のすぐ脇。ベッドの上で突然ケータイが鳴った。



「涼から?」

(いったい何だ…?)


「…もっし」


『おっつ、てか今何してた?』


「べつに…ダラダラしてた」


『そっか…あのさぁ、美樹から何か聞いてないか?』


「は?…何の話?」


『今、店に居るんだけどさ…美樹が来てねーんだ』


「……休んでんじゃねーの?」


『ん…慎一も綾も何も聞いてないらしくてさ。てかアイツ独り暮らしだし何かあったんじゃねーかと思って』


「…電話してみた?」


『したけど出ねーし』


「……ふぅん…」


 美樹が、何の連絡も無しに部活を休むなんてのも、電話をブチるなんてのも、今まで無かった事だ。

 原因があるとすれば…俺なんだろうけど…



『もしもしぃ?』


「!…聞いてる」


『あぁ…そんでさぁ、お前ちょっと様子見てきてくんねーか?』


「………なんで?」


『…なんでって』


「…てかお前、マンションの場所知ってんじゃん。鍵も持ってるだろ?」


『………お前、マジで言ってんの?』


「…いや…違う…ごめん…つーかさ……美樹がバックレてんだとしたら原因は俺だよ…たぶん」


『…………』


「……美樹の事がどうでもいいんじゃなくて、今は…会えないんだ」


『……………ふぅん』


 呆れたような相づちをうつ涼の声。

 通話状態のままケータイを耳から離し、なんだか耐えられない気分になる。


(…会いたいよ…本当は今すぐにでも)


 好きな気持ちは変わらない。だけど答えが出なきゃ、どんな顔して会えばいいのかわからない。

 そばに居ても、寄り添ってくれても、応えられなければ意味が無いんだから。

 美樹が辛いなら、飛んで行って傍に居たいけど、それが出来ない今、俺が出来ることなんか無いんだ。


 どうしようもない苛立ちで、両手が髪を掻きむしる。そして頭を抱え込んだら、昼間の蓮の言葉を思い出した。




「美樹は何て言った?お前が大切に想うアイツの気持ちは無視してもいいのか?」



(…美樹の気持ちを無視してる?…無視してるのか俺?)


美樹
「一緒に居てくれなきゃ嫌…」



(美樹はそう言ったよ。でも俺は…一緒に居ちゃダメだとしか思えない…)


 俺が大切にしたいのは美樹の幸せだ。それは揺るぎ無い。

 グルグルと、俺自身にぶつけられた言葉たちを思い返しながら、頭を抱え込んだまま動けなくなった。





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