序曲3





「つーかコレ、何の鍵だ?」


「はぁ?」


 思ってもみない質問をしてくるから驚いた。というか、あまりにも分かって無さ過ぎるだろコイツ。



「…ソレ。美樹の部屋の鍵だよ」


「は!?」


「何だよ何も聞いてないんかよ」


「だってアイツ何も言わねーんだもん」


「何も言わねーでソレ渡されたの?」


「つーか……すげー泣くから、何も聞けなかったし」


「……?」

(泣いてた?…泣いてたんだ)



「…ピアノに感動してたんじゃね?」


「…お前、見たな?」


「…見た」


「………」


「…いいよね〜ピアノ弾ける男子ってさ」


「あ、あれは詫びだ。それ以上の意味はねーし」


「…詫び?」


「一舞と別れるちょい前に美樹に八つ当たりしちゃってさ…謝って…そんで、殴れって言ったら、ピアノ弾けって言われたから…」


「何だソレ…」


「だから、別にそういう意味なんて無いんだよ」


「……へぇ…」

(詫び入れなきゃなんねー事したんだ…)



「で…気づいたら泣いてて。無言で渡された」


「…ほぉ〜」


「わけわかんねーよ」


「……」

(ほら…ただ泣いてるだけじゃ涼には伝わらねーじゃんか)


「…あのさぁ涼」


「…何」


「俺……蓮と美樹の事聞いちゃったんだよね」


「……………」


「……」

(…黙ったってことは、知ってたってことだよな)


「だから、美樹のこと諦めるって。言ったんだ…本人に」


「………?」


「その鍵。いつだったか忘れたけど、俺が勝手に作ったやつ」


「………お前のか」


 そう呟いて涼は、美樹の部屋の鍵を自分の目の前にかざす。



「蓮が話したのか?……あの事」


「まぁ…責任感じてるらしいよ、アイツなりに」


「…へぇ」


「……」


「…じゃあその手は、蓮を殴った証拠だな」


「普通に殴るでしょ」


「だよな…」


(ホントに全部知ってるんだなコイツ…)


 俺のぶっちゃけ話に明らかな動揺を見せて、涼は黙ってしまった。

 そんな涼と並んで歩く店までの道。次の角を曲がれば店の前だ。



「…じゃあ俺の方も殴っとけよ」


「…は?何言ってんの?」


「俺のは未遂だったけど、やっちまった事は蓮と変わらない…」


「…………」


「お前の気が済むまで殴ってくれて構わねーからさ…」


「…」

(ふぅん…)





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