序曲2




 普通科の音楽室。そこで涼が弾くピアノを、美樹が聴いている。

 その姿を確認するや否や、俺は静かにその場を離れ、部室に向かった。



 これでいいんだ。理由とかはどうでもいい。

 美樹が望む方向に進めばいい。


 ザワザワする気持ちを押し込めて、来た道を戻った。





 部室に着くと、衣装の入ったダンボールを確認し、店を開けて貰えるよう純さんに電話を入れた。

 連絡が取れるとすぐ、ダンボールを抱えて部室を出る。



 校内にはもう、ピアノの音は聞こえない。



 俺は真っ直ぐ出口へ向かった。












 職員玄関で来客用のスリッパを脱いだ時、背後から肩を叩かれた。



「…?」


「おっす」


「…あぁ……」


 振り返るとそこに、さっきまでピアノを弾いていた涼の姿があった。

 思わず返した声がやけに覇気が無く、自分でも驚いた。



「…なんだ、今日は静かだな」


「………俺だって、そんな四六時中テンション高いわけじゃないって」


「…ふぅん」


 涼は、物凄く不思議そうな顔をして俺を見ている。

 今はその視線さえウザったい。



「てかソレ衣装だよな?なんでお前が運んでんの?」


「……それがさぁ」


 とりあえず今朝、後任責任者から来た電話の話を説明した。

 すると涼は呆れて、ため息をついた。



「お前…3年は手ぇ出さない約束だろ。それじゃ卒業するまでアテにされっぞ」


「…それはそうなんだけどね〜」


「まぁいいや…俺が後で言っとくわ」


(…さすが、部長張ってた人は違いますね)


 何となく頭に皮肉が浮かんで驚いた。


(あらら〜…これは嫉妬ってヤツですねぇ…)

(だめだなぁ、俺…)


 うっかり湧いてしまった嫉妬心をかみ殺して涼を見ると、そんな俺に気づきもせず隣を歩いている。

 何故か店までの道を並んで付いて来ようとしているのが不思議だ。



「持つ?」


 と、ダンボールを差し出してみると…



「要らねー」


「……」

(じゃあ何で付いてくるんだよ)



「…てか洋さぁ」


「…なに?」


「美樹と何かあった?」


「………何かって、なに」


「…………コレ」


       ジャラ…


 涼が取り出して見せたのは、俺が美樹に渡した鍵。

 いつも首にぶら下げていたチェーンもそのままだ。



「あぁ……貰ったんだ。良かったねぇ」


 俺にはもう関係の無い物だ。


 意味がわかっているのかは心配だけど、とりあえず涼の手に渡ったことには安心した。


 このままうまく纏まってくれたら本望だ。


 思いの外落ち込む心をひた隠しにして、店への道をひたすら歩いた。





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