序曲2 普通科の音楽室。そこで涼が弾くピアノを、美樹が聴いている。 その姿を確認するや否や、俺は静かにその場を離れ、部室に向かった。 これでいいんだ。理由とかはどうでもいい。 美樹が望む方向に進めばいい。 ザワザワする気持ちを押し込めて、来た道を戻った。 部室に着くと、衣装の入ったダンボールを確認し、店を開けて貰えるよう純さんに電話を入れた。 連絡が取れるとすぐ、ダンボールを抱えて部室を出る。 校内にはもう、ピアノの音は聞こえない。 俺は真っ直ぐ出口へ向かった。 職員玄関で来客用のスリッパを脱いだ時、背後から肩を叩かれた。 洋 「…?」 涼 「おっす」 洋 「…あぁ……」 振り返るとそこに、さっきまでピアノを弾いていた涼の姿があった。 思わず返した声がやけに覇気が無く、自分でも驚いた。 涼 「…なんだ、今日は静かだな」 洋 「………俺だって、そんな四六時中テンション高いわけじゃないって」 涼 「…ふぅん」 涼は、物凄く不思議そうな顔をして俺を見ている。 今はその視線さえウザったい。 涼 「てかソレ衣装だよな?なんでお前が運んでんの?」 洋 「……それがさぁ」 とりあえず今朝、後任責任者から来た電話の話を説明した。 すると涼は呆れて、ため息をついた。 涼 「お前…3年は手ぇ出さない約束だろ。それじゃ卒業するまでアテにされっぞ」 洋 「…それはそうなんだけどね〜」 涼 「まぁいいや…俺が後で言っとくわ」 (…さすが、部長張ってた人は違いますね) 何となく頭に皮肉が浮かんで驚いた。 (あらら〜…これは嫉妬ってヤツですねぇ…) (だめだなぁ、俺…) うっかり湧いてしまった嫉妬心をかみ殺して涼を見ると、そんな俺に気づきもせず隣を歩いている。 何故か店までの道を並んで付いて来ようとしているのが不思議だ。 洋 「持つ?」 と、ダンボールを差し出してみると… 涼 「要らねー」 洋 「……」 (じゃあ何で付いてくるんだよ) 涼 「…てか洋さぁ」 洋 「…なに?」 涼 「美樹と何かあった?」 洋 「………何かって、なに」 涼 「…………コレ」 ジャラ… 涼が取り出して見せたのは、俺が美樹に渡した鍵。 いつも首にぶら下げていたチェーンもそのままだ。 洋 「あぁ……貰ったんだ。良かったねぇ」 俺にはもう関係の無い物だ。 意味がわかっているのかは心配だけど、とりあえず涼の手に渡ったことには安心した。 このままうまく纏まってくれたら本望だ。 思いの外落ち込む心をひた隠しにして、店への道をひたすら歩いた。 Novel☆top← 書斎← Home← |