原因5




(あたしって、単純に恋愛だけで悩む事って出来ないのかな…)


 パパとの話し合いから一夜明け、少しだけ憂鬱になりながら、問題の放課後を迎えた。

 正門で美樹さんと合流し、由紀ちゃんが帰宅するのを見届けてから、涼ちゃんのことを幾つか質問してみる。


美樹
「照がそう言ったの?」

一舞
「はい…」


 昨日、軽音科からピアノ科に向かう間。壁に飾られていた写真についても、涼ちゃんが校内一の有名人であることについても、それが何故そんなにも説明しにくいことなのか、照ちゃんは言葉を濁した。

 あのコンサートホールの二階にあった謎の部屋だって、行くなと言われた理由がわからなかったし…。


美樹
「んー…説明しづらいっていうと確かにそうなのよね…。」


 そう言いながら、美樹さんも少し困っているようだ。


美樹
「簡単に説明するとね、私も、涼も、照も、生徒会役員なの。中でも涼は生徒会長で、全校生徒の中から選ばれた唯一の存在なわけよね」

一舞
「…だったらそう言ってくれたらわかるのに」

美樹
「普通の生徒会なら、すぐに話せたでしょうけど…」

一舞
「どういうことですか?」

美樹
「ウチの生徒会は、生徒会である以前に一部活動なの」

一舞
「…え?」

美樹
「それも、校内で一番大規模な部活。涼は、生徒会長であると同時に部長でもあるから…」

一舞
「…?」

美樹
「通常の部活動と同時に生徒会の仕事を、部全体で取り仕切っているから…それを全て纏める涼の仕事量は普通じゃないのよ。だからそれを説明するのも、どこから話せばいいのか…」

一舞
「……」

美樹
「あ、それから、ホールの二階にある部屋ね」

一舞
「え、はい」

美樹
「あそこは生徒会本部兼部室なの」

一舞
「………」

美樹
「部員が集まることはあまり無くて、涼が1人で居ることが大半ね」

一舞
「…涼ちゃん1人で」

美樹
「うん…1人のはず…」

一舞
「……」

(昨日は他の人も一緒だったよ…?)



美樹
「…一舞さん」

一舞
「…はい」

美樹
「涼は昔とは違うんだよね?」

一舞
「…少なくとも、あたしが知ってる印象とは違います」

美樹
「でしょうね…。ただ、私も涼の本質を全て知ってるわけじゃないから、今のアイツが何を考えてるのかわからないけど…」

一舞
「……」

美樹
「照が、あなたに《行くな》と言った気持ちはわかるわ…」

一舞
「え…?」

美樹
「一舞さんが傷つかないように、先に忠告してくれたんだと思う」

一舞
「…あ」

美樹
「後は、照や香澄にも色々聞いてみましょう」



 そう言うと美樹さんは、足早に歩みを進めた。

 あたしは、照ちゃんからの配慮に気づかなかったことに後悔しながら、昨日の涼ちゃんの目を思い出していた…。





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