合鍵4





 見渡す限りに沢山の花が咲いている、ここはいったい…

 あ、美樹だ。


美樹
「ふふふ…」


 そうか、一緒に散歩に来ていたんだっけ。

 よく見ればここにあるのは全部、美樹の好きな花だもんな。


美樹
「ふふ…」


 ん?もう次の場所に行くの?

 あ、待って?



〜♪♪♪ 〜♪♪♪



 ねえ美樹?この花、少し持って帰ろうよ。

 そんで美樹の部屋にいっぱい飾ろう。



〜♪♪♪ 〜♪♪♪



 ほら、こんなに沢山咲いてるんだもん。

 …あれ?美樹?



〜♪♪♪ 〜♪♪♪



 え?ちょっ?どこ行くの?



〜♪♪♪ 〜♪♪♪



 待ってよ!美樹!



〜♪♪♪ 〜♪♪♪



 美樹ーーーーー!!!



〜♪♪♪ 〜
ピッ!


??
「もしもし」


(ん?)


??
「…あぁ、ゆうべ寝てないからなのか知らないが、寝言を言いながら魘されている」


(は?)


??
「む、少し待て。起きたかもしれない」


(え?)


??
「おい、電話だぞ」


「…んぁ?……………………………って!お前なに勝手に俺の電話に出てんだよ!!」


「お前の着うたが五月蠅くてイライラするからだ」


「はぁっ!?つーか、いちいち勝手に部屋入んなよ!ハゲ!!」


「ふん、俺よりも確実に禿るのはお前の筈だが?」


「なっ!?」


「どうでもいいが、自分の相手くらいまともに対応したらどうだ。いちいち俺に迷惑をかけるな」


 そう言って蓮は、俺にケータイを投げつけて出て行った。



「だ!か!ら!そんなこと言うならいちいち関わってくんなっつーの!!」



 怒りに任せて大声で叫んだものの、途端に放置を決め込んだ蓮には届かず。イライラしながら電話に出た。




「もしもし!誰!?」



 ムカついたテンションのままケータイに向かって低い声を出すと



美樹
『…起こしてごめん』


「ふおっ!!美樹!?」

美樹
『うん。美樹だよ』



 美樹だと分かった途端に狼狽え、声を上擦らせてしまった。

 耳元には、そんなことなど全く気にしていない様子で、柔らかく可愛らしい美樹の声が響く。

 俺はまだ、上擦った声を戻すことができず、釈明しようとした。



「うわっ!ごめん!てか今のは違くて!」

美樹
『…あのね?』


「うっ!?」

美樹
『ゆうべは来てくれてありがとう』


「……へ?」

(それは…どういう意味なんでしょうか)


 勝手に合い鍵なんか作ってたんだから、その時点でウザがられると思っていたのに。


美樹
『でもどうして、電話に出てくれなかったの?』


「え…あ、ごめんね…蓮にムカついた勢いで出てったから、家に忘れてたみたいで」

美樹
『真っ直ぐ帰ったんじゃないの?』


「ちょっと頭冷やしてた」

美樹
『………』


「………」



 今のこの状況はいったい何なんだろうか?

 これじゃまるで、《彼女》から釈明を求められているみたいな…



「……つーか俺、美樹を諦めようとしてるんだけど」

美樹
『……どうして?』


「どうしてって…」

美樹
『………』


「…………」

美樹
『……鍵なんて…』


「……え?」

美樹
『…独りの部屋に、2つも鍵なんて要らないじゃない』


「じゃあ…涼に渡せばいいじゃん」

美樹
『…………』


「…そのつもりで…渡したんだけど」

美樹
『…………ふーん』


「…………」

美樹
『…あっそう、わかった。』


「…うん」

美樹
『洋なんか嫌い』


「はっ!?」

美樹
『なにが《涼に渡せばぁ?》よ…ばっかじゃないの!?』


「え…なんで怒ってんの?」

美樹
『うるさい、嫌い!じゃーね!』


 ブッ…


 ツーッ…ツーッ…ツーッ…



「!………」



 乱暴に切られた通話。耳元に虚しく響く機械音。


(てか美樹が怒る理由がわかんねーし)


 諦める事を決めたとはいえ《嫌い》と言われたショックはデカい。



「……すげー追い討ち」



 強い脱力感で再びベッドに転がる。その瞬間、ケータイが手からこぼれ落ちた。



(美樹…つーかお前、誰が好きなんだよ)



 今の会話じゃまるで、美樹が俺を好きみたいに聞こえる。

 あまりのショックと混乱で複雑な気持ちになりながら、そのまま寝ちゃおうかと思った。

 だけど結局、さっきの電話でバッチリと目が覚めていて眠れやしない…。



(…はぁ…今夜も部活で顔合わすのに、気まずいな)


「……」

(好きな子に会うのが気まずいとか、俺マジで終わってるかも…)







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