合鍵3



 朝6時。

 なんとか食えそうな家族の朝食を用意して父ちゃんを起こし、事情を話して母ちゃんを寝かしておいてもらえるよう説得。

 父ちゃんと一緒に飯食って、出勤したのを確認し、蓮に声をかけてから部屋に戻る。

 さすがに、襲いかかる眠気に耐えられなくなってベッドに転がると、枕元に置いてあったケータイが光っていることに気がづいた。



「うわ!?スゲー着信なんだけど」


 独り言を呟いてケータイを開くと、その履歴には蓮と、美樹の名前がこれでもかと並んでいた。



「……」

(どうする?…蓮はいいとしても美樹からこんなに着信があったなんて…)

 メールじゃなく電話ってところがまた困る。

(…マジどうしよ)

 諦めるって決めたのに、こんなことをされたら無視するのはかなり難しい。

 かと言って電話を返すわけにもいかない…と思う。



「スゲーな…」


「わっ!なんだよ!?」


 いつの間にか蓮が俺の部屋にいて、横からケータイを覗いている。



「ドア、開けっ放しだぞ」


「だからって断りも無く入ってくるな」


「…電話返さないのか?」


「……素で言ってんなら殴るけど」


「…付き合っていたわけでも無いのに、無視するのもおかしくないか?」


「…でもそれじゃ、気持ちの整理がつかないじゃんか」


「……相手が求めているのに整理するのか」


「……………」

(…求めてる?美樹が俺を?)


「つーかお前のせいでこうなってんのに、要らねーことばっか言ってんじゃねーよ」


「俺のせいだから気になるんだろうが」


(…何言ってんだか)


「わかった。じゃあ電話するからどっか行ってよ蓮くん」


「…それはそうと、あの朝飯、食っても腹壊さないよな?」


「うっせーわ!なら食うな!」










 電話する。とは言ったものの…

 これがなかなか…発信ボタンが押せません。


 ケータイを握りしめ、画面に表示されている美樹の番号を見つめながら、俺の手は動こうとしない。


(…てかなんで?…なんで、ってかなに話せばいい?)

(つーか何この緊張感?ヤベ…動悸がしてきた)


 ついに朝日は登りきって、窓からの日差しが痛いくらい肌に突き刺さる。

 ゆうべ美樹に手当てしてもらった右手は、朝飯を作った時にガーゼが濡れて、それを剥がしたせいで傷がむき出し…。

 自分じゃ絆創膏すら貼れなくてまた、少し血が出始めている。

 ジワジワと、この手に触っていた美樹の指の感覚が蘇ってきて、いつの間にか俺は…

 たくさんの花に囲まれていた…





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