双子2



 蓮は俺の方を見ずに、自分の指先をごちゃごちゃ動かしながら話し始めた。

 その姿はまるで…悪い事をして、ママに釈明する子ども。

 あまりに珍しい態度なもんだから、突っ込んでいいものかわからず、俺も黙って聞く。







………


……………


………………

 それはまだ、俺たちが高1の頃…

 一舞が居なくなって半年以上は経っていたけど、蓮も涼もかなり荒れていた時期。


 俺はそんな2人に合わせることができず、いつも別行動を取っていた。


 そんな頃の出来事…

………………


……………


…………


……











        ガタッ

      ゴンッ!





(なんだそれ…なんだよそれ!!)

(なんでそんな事…っ!!!!)







 気づくと俺は、蓮に掴みかかっていた。

 そのまま床に倒れ込んでしまうほどの勢いで…。






「…っ……悪かった」


「俺に謝ったって意味ねーし。謝れば済む問題じゃねぇよな!?」


「…だったらどうしろってんだ」


「…知るか!自分で考えろよ!だいたい…あの頃のお前がキツかったのは知ってっけど、美樹には何の関係も無い事だろうが!」


「………」


「黙ってりゃいいと思うな!このドS気取りがよ!!」


「……………俺には、大したことじゃなかった」




     ゴッ!!





「ざっけんな!!!」






「痛って…」


「お前にはそうかもしれねーけど美樹はっ…それを、一生抱えて生きてくんだぞ!」


「………」


 誰だって…一番最初の思い出は、忘れようにも忘れられない。一生消えない。

 それが悪い思い出である以上、美樹がずっと苦しみ続けることくらい、俺じゃなくたって想像できるだろう。

 気づいてやれなかったことが悔しい。知らなかったということが、今までどれだけ美樹を傷つけていたのか、考えるだけで壊れそうだ。


 俺は蓮を殴った。今までに無いくらい力一杯に…。

 蓮は下を向いて、何も言わなくなった。


 そうか。

 だからコイツ、謝ったんだな…。

 だから美樹は、許せないんだな…。


 よくわかったよ。





「………」


「………」



 蓮に馬乗りになっていた俺は、ゆっくり立ち上がり、部屋を出る。

 廊下に出ると、物音で目を覚ました母ちゃんが慌てて二階に上がってこようとしていた。



「ちょっと洋!アンタこんな時間にどこに行くの!?っていうか今の音!何!?」


「…母ちゃんゴメン。蓮、怪我したかもしんねー」


「……」


 それだけ言って外に出た。


















 俺ら双子は、正反対の性格だってよく言われる。

 蓮は喧嘩っ早くて、俺は寛大だ…って。

 でもそれは、どっちも不正解だ。

 俺たちには元々、そんなに違いは無かった。



 蓮が変わり始めたのは中学に入る辺り。みんなが言う《違い》が出来たとすれば、そこからだ。


 それから一舞と出会って、離れて…アイツが荒れてた時期。あの頃の蓮は、蓮じゃなかった…。

 無理して自分を作って結局、自責の念で自分を追い詰めてた姿しか見てないからな。そんな不安定な時に起きてしまった事とはいえ…

 その影響が美樹に及んだんだとしたらそれは、蓮の変化に見て見ぬ振りをしていた俺にも…責任があると思う。


 蓮だって、打ち明けるには相当な覚悟をしてただろう。

 ドSぶってはいるけど本質は、仲間想いで家族想いの、優しい奴だから。

 だから蓮を殴った分、俺も…痛みを受けるべきだと思う。





 星が輝く夜空の下を、しかめっ面で歩く。

 時間はそろそろ日付が変わる頃。

 美樹はもう寝てるかもしれない。


 今、美樹に会って何をするのか…蓮が電話したんだから、あの話が俺に伝わってることは当然わかってる。


(…会ってくれるかな)


 俺と美樹が友達になる前の話とは言え、あんな事、人に知られたいわけが無い。

 もっと…誰よりも早く出会っていれば…そんな間違い、絶対に起こさせなかったのに。



 息が苦しい…胸が痛い…

 美樹が今までどんな気持ちでいたのか、それを考えるだけでおかしくなりそうだ…



……………


………










      ピンポーン…


















美樹
『……こんな時間に…誰?』


「………俺」









      ガチャン……




美樹
「…いつも勝手に入ってくるくせに」


「…ごめんね…こんな時間に」

美樹
「………ううん」


「…………ごめん…」



 下を向いている俺を、美樹が見ているのがわかる。



美樹
「……入ったら?」


「……いいの?」

美樹
「こんな時間に玄関先で話してたら近所迷惑じゃない」


「…あぁ、そっか」


 美樹は、照れた様子も困った様子も無く、いつも通りに俺を招き入れた。



「………」

美樹
「紅茶でいい?」


「ん、うん」



 俺が言うべき事は決まってる…



 迷っちゃダメだ。






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