恋敵3




 翔さんの愛車、ダッジ・マグナム。

 心地いいエンジン音を響かせて走る車内は、かなり静かだ…。


 午後の太陽の光を受けてキラキラ光るブロンドと、車の振動に合わせて揺れる、パイナップルのように高い位置で結ばれた黒髪。

 それを俺は、後部座席で眺めているわけだけど…

 あまりにも会話が無いもんだから、おかげでちょっと飽きてきた。

 パンツのポケットからケータイを取り出し、美樹にメールする。


――――――――――――

今、翔さんの車で帰省中だよ(`・ω・´)♪
早く美樹に会いたいよ★

――――――――――――


 たぶんスルーされる…俺のラブアピールはスルーされる…いつものこと…。



〜♪




「なんだ?」


「あ!すんません俺のケータイっす!」


「…そうか」


(やべー、マナーモードにすんの忘れてた…!)



「いいよ…気にすんな」


「…はい」



 翔さんの言葉に返事を返して、届いたメールを確認する。



――――――――――――

お疲れ('-^*)/☆

一舞と翔さんの事聞いたけど、涼は大丈夫?

――――――――――――




「………」

(やっぱりスルーされた)


 返事が来るだけいいけど……さて、なんて返信するべきか、ちょっと悩む。




「あのさ翔くん…」


(お?)



「…ん?」


「…ぶっちゃけ本気?」


「!!」

(うわ!これから始まんのかよ!?)



「本気じゃなかったら、高校生に告ったりしないだろ」


「……ふぅん」


「………」


「………」


「………」


「…言いたいことがあるなら今のうちに言っとけ。帰ってからじゃ聞けない」


「…じゃあ聞くけど…いつから一舞のことそういう風に見てたんだよ」


「さぁな…でも気づいたのは…お前と別れる少し前だな」


「……香織さんと…被せてないよね」


「………まったくの別人だろ」


「じゃあ、ちゃんと一舞を見てるって言い切れんのかよ?」


「ハァ…お前に宣言しても仕方ねーけど、一舞は一舞だ」


「………」


「………」


「………」


「………」


「……終わりか?」


「…一舞を泣かしたらぶっ殺す!」


「ふっ…まぁ…せいぜい頑張れよ」


「………」

(うわぁ〜…)



 やっぱり俺、別の車に乗っときゃ良かった。

 『一舞を泣かしたらぶっ殺す』とか…

 涼が言うとマジに聞こえて怖ぇ〜けど、それに笑って答える翔さんはぶっちゃけもっと怖い。


 冷や冷やしている俺を余所に、結局それ以降は、曲の仕上がりはどうだとか、レコーディングはどこでするとか、店のこととか。

 普通にバンドの話が続いていた。



「…」

(涼は納得したのかな…?)

 てかマジで…

 《香織さん》て誰なんだよ?

 翔さんの元カノとか?

 もしかして何かキツい事情でもあったりすんのかな?



「……」

(うわー!スゲー気になるわ〜!)

(つーかこれじゃ、美樹に何て返していいかわかんねーし)

 そう思って、さっきの美樹からのメールを読み返す…。



「……」


 俺がどんな言葉を送っても、本文の最後は必ず涼の心配。

 まあ、いつものことだけど…

 これだけ会わないでいたんだから、少しは俺のことも考えてくれたっていいのに…。

 寂しいもんだぜ…みたいな?



……………


………






 そんなこんなグダグダ考えているうちに、車は地元に帰り着いた。

 店に着いて、帰着報告を済ませると、店に機材を運び込む。


 それが終わると弥生さんから、俺ら全員にコーヒーを出してもらえた。



 それから少しすると、美樹が店に入ってきた。



「美樹ちゃん」

美樹
「あ、洋…お帰り」


「ただいま……さっきの返信できなくてごめんね」

美樹
「…ん…いいよ。そんなすぐ答えられる質問じゃなかったよね」


「………」



 俺は今。いつも以上に寂しい気持ちになっている。

 それは美樹から、欲しい言葉をもらえなかったから…ってだけじゃなく…

 その目の行き先がわかっているから…。



美樹
「…洋?」



 俺が黙っているのが不思議らしく、美樹は俺を見て首を傾げている。




「………」

(ほんっと可愛いな…)


美樹
「…どうしたの?疲れちゃった?」


「………美樹」

美樹
「…ん?」


「……大好きだよ」

美樹
「…うん…知ってる」


「………ホントに?」

美樹
「うん。ちゃんとわかってるよ…心配しないで」



 そう言って美樹は、落ち込んでいるからか背中が丸まっている俺の、頭を撫でる。


 伝わってるならどうして…


 そんな言葉が、口から出そうになった。


(もう限界なのかな、俺…)


 俺の頭から手を離し、涼の方へ向かっていく美樹の靴音を聞きながら…

 胸の中がザワザワとするのを感じていた。





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