愛憐6




 ちょっと遅い夕食時。

 食卓を囲むのは《Babies'-breath》のメンバーのみ。


一舞
「……」

(…っていうか)


 先ほどまでのグチャグチャした内容を、まずは、とりあえずは、謝ったのだけれど…



「あ〜…腹が痛くて飯が食えねーわ」


 不機嫌MAXの涼ちゃんを筆頭に…



「わざわざ翔さん呼びに行ったのに、閉め出されるわ腹減ったまま放置だわ…散々だな…」


「意味不なまんま場面で追い出されたんじゃ結構凹むっしょ…超疲れたわマジで」


「まぁ俺は…香澄と電話するチャンスができたのはラッキーだったけどな」

一舞
「…あは」


 ご機嫌を損ねずに済んだのは照ちゃんだけのようで…これはなかなか許してもらえそうに無い感じでしょうか?

 まさかのグループ崩壊の危機?


(…でも)


一舞
「っていうか…涼ちゃんがあのままあたしを逃がしてくれてたら、そこまでお腹痛く無かったと思うんだけど」


「何?俺が悪いの?あんな優しく抱きしめてやったのに」

一舞
「は?どこが。かなり無理やりだったじゃん」


「あ、それは俺も同感」


「はぁ?」


「そうだな…あのまま行かせてやれば、俺らが閉め出されることは無かったな」


「あぁ!?」

一舞
「…ほら。みんなこう言ってますけど先輩」


「先輩言うな!つーか逃がしてたらまた明日も同じような事になるだろうが!そんなん付き合ってらんねーんだよバーカ!!」

一舞
「…涼ちゃんてデリカシー無いよね」


「まぁ今に始まったことじゃねーわな」


「てめ…」


「てか何?…結果、涼が悪い感じ?」


「そうだな。涼が悪い」


「なんでそうなるんだよ…はぁわかったよ。もういいわソレで。はいはいごめんね一舞ちゃん」


 結果的に、涼ちゃんに責任転嫁する形で喧嘩終了?みたいな。

 涼ちゃんには悪いけど、これはこれで面白いかも?…なんて、本当に申し訳ない。

 本当に怒っているのか、不機嫌なフリなのか、涼ちゃんはそっぽを向いてしまったけど。

 みんなの顔に笑みが漏れ始めた辺りをみると、もう大丈夫みたいだ。



「…で?…翔さんはどんな風に慰めてくれたんだ?」

一舞
「!」

(わ…こんなところにも黒笑いする人が居る)



「はっ!そうだよ!気になってんのはソレ!」


「いちいちうるせーなお前」


「なにがだよ」

一舞
「…」

(ん〜、コレって…話してもいいのかな)


 なんとなくだけど、今はタイミングじゃない気がするし、翔に任せたほうがいいのかも?って思うのですが。



「何か考えてるねぇ…でも俺ら、知る権利あると思うんだけどな」

一舞
「う…」

(権利とかズルい…)



 これは本当にどうしましょうか。

 なんだかんだ話さなきゃならない状況になってきた。

 
 そんなみんなの期待に満ちた視線に、ほとほと困り果てていた時。





       ガタッ…





 テラスに続く、大きく開け放たれた窓から、翔が不機嫌そうに入ってきた。

 ドアを開けるのさえ面倒だったのか、窓が開け放たれていたそこから入ってきた翔は、無言のままズンズンとあたし達の方へ近づいてくる。

 何も言わないけど、とっても不機嫌だってことが丸わかりなその顔。


(…あれ?)


 ちょうど、翔が照ちゃんの背後に立った時。

 彼の口元が、血で滲んでいる事に気がついた。


一舞
「……翔…?」


「………ん?」


 顔は不機嫌だけど声は優しい…


一舞
「…ココ…どしたの?」


 自分の口元を指差して聞いてみると…



「……別に」

一舞
「…」

(別に…じゃ答えになってません)


 結局彼は、あたしの質問に答える気は無いらしく。その話は終了とばかりにあたしのすぐ側に来て

 後ろからあたしを抱きしめる形で、食卓についている涼ちゃんと蓮ちゃんにこう言った。



「コレ…俺のだから」

一舞
「………はぁ」

(…《コレ》って言い方)


 涼ちゃんも蓮ちゃんも、ポカンと口を開けて、驚いているのか微妙な表情を浮かべている。




「要するにぃ…」


「翔くんと一舞は、付き合う…って事か?」


「…そういうことだ」


「はぁぁっ!?」


「なっ…!!!」

一舞
「…えへ」

(…マジです)


 やっぱり翔に任せるのが正解だったらしいですね。

 これで、みんなからの質問の答えにはなったし、良かった。

















(…って、ちょっと待って)


一舞
「だから翔、コレ何?」


「痛って!!?」


 あたしの顔のすぐ横にある翔の口元。その痛々しい傷を、軽くつついてみただけなのだけど。

 あたしが思った以上に痛かったらしく、触った瞬間飛び上がった。


一舞
「はぁ、も〜…はいはい、手当てしますよ〜」


 あたしはあたしを抱きしめていた翔の腕をスルリと抜けて、そのまま腕を掴んでソファーまで連れて行く。



「…なんとも無いから」

一舞
「なんとも無いのに痛いんですか?」


「…」


 あたしに腕を引かれて、何か言いつつも抵抗しない翔をソファーに座らせ、救急箱を取り出す。


 あまり腫れないでくれると嬉しいのだけど…。

 どうせこんな乱暴なことをするのは学ちゃんくらいのものだろうから、怪我の原因はなんとなく察しがつく。


(…後でコッソリ、学ちゃん締め上げてやろ)



「…荒っぽい事はナシで頼む」

一舞
「ん?何の話?」


「……」


 ニッコリ笑顔で言葉を返す、そんなあたしの内心を見抜いているのか

 翔の顔は、少し引きつっていた。




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