愛憐5



……………

………




一舞
「……っふぁ!…ケッホ!ケホッ!コホッ!!」

(し、死ぬかと思っ…!!)



 翔から解放されると、無意識に大きく息を吸い込んだ。

 勢い良く吸い込んだからなのか、軽く咳き込んでしまっているあたしに…



「ははっ、大丈夫か?」

一舞
「…!…!」

(…大丈夫に見えますか!?)



「…なんだ、もしかしてずっと息止めてたのか?」

一舞
「…っ…ケホッ…ケホッ」



 『違うわ!アンタのせいで窒息しかけたの!』そう叫んでやりたいのにうまく声が出ない。

 言いたい事も言えず、喉の辺りを押さえて咳き込むあたしの背中を、翔の手がそっと撫でてくれる。そしてもう一方の手で、あたしの頭をそっと抱き寄せた。



 そうしてお互いに座り込んだまま、翔に介抱されて…あたしはようやく、正常な呼吸を取り戻せた。



「……キスするだけでそんな風になられたら困るな」


 あたしの呼吸が落ち着いた事を確認して、頭の上で翔が呟いた。


一舞
「……」

(てか、キスするだけで…って、その先があるみたいな言い方…)


 本気で怖いからやめてほしい。



「……寂しかったんだろ」

一舞
「!?」


 不意に図星をつかれて、恥ずかしさで体が強張った。



「…実は俺もなんだよね」

一舞
「!」

(……翔も?)



「…………何か言えよ…もう話せるだろ?」

一舞
「……」

(……照れてる?)


 くるくる変わる翔の雰囲気が、堪らない程の恥ずかしさを和らげてくれたらしい。

 呼吸だって元に戻っているし、気持ちも落ち着いているんだから話さないわけにいかない。

 あたしはゆっくりと、今気になっていることを言葉にしてみることにした。


一舞
「…ん……ていうか」


「……うん」

一舞
「…いきなり心臓の音が凄いけど、平気?」


「っ…」


 今あたしは、翔の胸に頭をくっつけている状態なものだから、その鼓動の早さが耳に届いてしまうのだ。




「…ったく…本気でキスしたのに平気なわけないだろ」

一舞
「!!」


 当然だとばかりに言ってくるけど、自分がどれだけ凄い事を言っているのか分っていないのでしょうか。

 おかげであたしは頭から湯気が出そうだ。

 ただ困ったことに、そんな本気を出されても、もっと初心者向けの対応をしてくれなければ、閃いた答えに自信が持てない。


一舞
「…どうしてキスするの?」


「……お」

一舞
「……」


「………お前…まさかとは思うけど、わかってないのか?」

一舞
「…………え…っと」


「はぁ…信じらんねー」

一舞
「あっでも……あたしは……」


「………ん?」


 あたしが言いかけると、翔は体を離してあたしの顔を覗き込む。


一舞
「ふわっ!?顔見るとか無し!!」


 あたしは恥ずかしさのあまり思いっきり顔を隠したけど…



「ふぅん……でも見るけどな」


 嬉しそうにニヤニヤしながらあたしの顔を覆う手をどかして、真っ赤になっているであろうこの顔を満足そうに見た。


一舞
「やぁ〜だぁ〜!」


「ふはは、超可愛い♪」

一舞
「可愛くない〜!」

(くっそ〜!何故勝てない!!)


 嫌がれば嫌がるほどに、翔は顔を覗き込んでくる。

 そうしてじゃれ合っているうちに、力が抜けて、結局は目を逸らせなくなって…



「…わかんない?」


 少し甘えたような視線を向けて微笑む翔の声が、あたしを縛ってしまう。


一舞
「…てか翔は《女嫌い》だって聞いたんだけど」


「ん?……いや?…女は好きだけど?」

一舞
「……」

(わ……その言い方は無いなぁ…)



「…まぁ…厳密に言うと。一舞を、好きなんだけど」


(!!!)


一舞
「なんでそんなサラッと言えるんだよ〜!」


「べ、べつにサラッとなんて言ってねーだろ」

一舞
「だって…スッゴい余裕な顔してたもん」


「バッカお前…こんな恥ずかしいこと言ってんのに余裕なんかあるか」

一舞
「…う〜」

(…とか言って、いつも余裕の黒笑いで迫ってくるくせに、よく言うよ)



 雰囲気的にも感じとれてしまうほどに、翔とあたしでは恋愛経験のレベルが違うから。

 なんだかよくわからないけど拗ねたくなってしまう。




「………で?」

一舞
「……」

(ほら、やっぱ余裕あんだもん…)



「…一舞は?」

一舞
「……」

(…ズルいよ)


 そんな待ち構えた顔して、あたしにまでそれを言わせようなんて…。



「俺は…同じ気持ちだと思ったから、キスしたんだけどな…」

一舞
「……」


「……勘違いだった?」

一舞
「……」


「……」

一舞
「……」


「…俺にも、自信ちょうだい」

一舞
「………うん」


「ほら…ちゃんと教えて?」

一舞
「……………好き」


「……」

一舞
「……………好き。こんな気持ち初めてで…凄く苦しい」


「……苦しいなら……俺に全部ぶつけて」

一舞
「…………」


「…俺も…ぶつけるから」

一舞
「…いいのかな……あたし…凄く《こども》だよ?」


「…大丈夫、大人にしてやるから」

一舞
「うっ……うん…」

(その言い方はどうだろうか…)



「…俺はそのままの一舞が好きだから、無理しなくていい」


 戸惑うあたしに向かってそう言いながら、ぎゅう…っとあたしを抱きしめてくれる。

 その腕の力にまた、胸がキュッとなる。



(なんだか、胸の真ん中から、何か温かいものが溢れてくるみたい…)


 嬉しくて幸せで、ウットリと身を任せる。








「……俺の…」


 するとあたしの耳元に触れる、甘えた響き…




 出会った頃は、こんな今を想像すらしてなかったけど…



 翔で良かった…


 なんだか今、そう思う。






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