愛憐4



―――――――side 一舞


 ずっと、自分が何をしているのか分っていながら、制御することができなかった。

 何故なんだろう。こんなこと初めてだ。

 泣いた理由は、自分では分かったつもりだけど、認めてしまうのは躊躇われる。そして、今のこの状況がとても居た堪れない。



(うぅ…どうしよう…)



 それにしてもどうして翔がここにいるんだろうか。

 誰かが呼んできたのだとしても、いったい何故?


 翔に引き寄せられるまま抱きついたはいいけど、少し冷静になると、これは凄く困る。

 とにかくここからどうしたらいいのか、恥ずかしさで動けなくなってしまった。




「……で?…どうしたんだ?」



 2人だけになった空間に、翔の優しい声が響く。



一舞
「………」



 どうしたと聞かれても、何と答えていいのかわからないくて黙っていると…




「俺さぁ…さっき凄くいい感じのフレーズが浮かんだんだよね…」

一舞
「………?」


「でも…メモする暇も無く出てきちまったから…忘れちゃったなぁ…」

一舞
「………」


…どうしてくれるの?

一舞
「!!」

(出た!艶声!!)


 きっと今、黒笑い浮かべてる!

 絶対、黒笑いしてる!



「なんで泣いたのか言わないと……スッゴいキスしちゃうけど…いいのかな?

一舞
「………」

(うっ…想像できないだけに怖いんですけど…)


 どうして泣いたかなんてもう自分ではわかってるけど、それを本人に向かって言うなんてとても出来そうにない。


一舞
「わっ!?」


 突然。どうしていいかと困惑しているあたしの顔を、翔は自分の方へ向かせる。



なんで赤くなってんの?

一舞
「…!」

(てかなんでそんな余裕なの?)


 翔にはあたしの気持ちなんてお見通しなのかもしれない。


(…だったら言ってみようか?)


 余裕の黒笑いを浮かべる翔を見てると、なんだか悔しくなってきて…あたしはとんでもないことを口走った。


一舞
「…キス…してくれたら、話してもいいよ」


「!」


 黒い笑顔からビックリ顔に変わった翔を見て、自分の言ったことに激しく後悔した。

 後悔からつい目線が泳いでしまうと、それを見抜かれてしまったらしい。彼はまた余裕の表情になる。



……可愛いこと言うね

一舞
「!!」

(しまった!)


 口走った言葉を取り消せるわけもなく、あたしはすぐに唇を塞がれてしまった。

























(…だから。嫌なわけでは無いんだけど、意味がわからないの)

(っていうかホント信じられない…何なのこの人?)


 とにかく抵抗なんか出来ないし、仲直りの時のそれとも全然違う、あたしの知らないキスをされて…本気で息が止まるかと思った。

 あたしはもう立ってさえいられなくて、全身の感覚さえわからなくて…


 途端に膝から崩れ落ちてしまった。







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