愛憐3



―――――――side 蓮



(何故だ)

(なんだって、泣いてる一舞をなだめる役が翔さんなんだ…)


 納得できない気持ちのままスタジオを出て、離れにある別スタジオに向かう。


 翔さんを呼びに行く事もそうだが、透瑠さんからの電話も腑に落ちない。だいたい、透瑠さんと一舞がそんなに仲良がよかった記憶も無い。



透瑠
『あらぁ〜…一舞ちゃんまた泣いちゃってるのかぁ…』




 電話の向こうではこう言っていたが「また」…という事は、透瑠さんはあの状態の一舞を見たことがある…ことになるよな…?



透瑠
『そうか…困ってるんだ?ふふっ、一旦火が点くとなかなか泣き止まない赤ちゃんみたいなもんだからねぇ一舞ちゃんは。ほ〜んと可愛いよね〜♪』




 一舞が可愛いという事には同意するが、何故そんなこと知っているのか意味不明だ。



透瑠
『まぁとりあえず翔に任せてみなよ。きっと泣き止むから〜』




 だから何故だ!

 とにかく、透瑠さんの一言一言にいちいち突っ込みたくて仕方なかったんだ俺は。




 外に出て、独り…頭の中で透瑠さんの言葉を思い出しては言いたくても言えなかった突っ込みを入れる自分が鬱陶しい…。


 とはいえ俺も…あんな一舞にどう対応していいのかわからない。というか、泣かれるのはどうしても苦手なんだ…。













 苛立ちが困惑に立ち戻った辺りで、翔さん達が籠もっているスタジオの前に着いた。

 どうせノックをしても無駄だろうと思いそのままドアを開けると、意外にも中は静かで…

 《APHRODISIAC》の鋭い目が、俺に向かって一斉に注がれた…。



(…ピリピリしているな)




「…どうした?」


「……すいません、翔さんに少し、話があるんですが」


「ん?…翔」


「…はい?」


「お前に…蓮が話あるってよ」


「……」


 スタジオの奥のソファーにいた翔さんは、マッタリと立ち上がって、無言で俺のところまで歩いてくる。そして俺の前に立つと、前髪の隙間から、明らかに不機嫌な視線が覗いた。



「…集中しているところ、すみません」


「……何?」


「…少し…一舞のことで相談があります」


「……それ…今じゃないとダメなのか?」


「はい」



 一舞の名前を出した途端、翔さんの眉間のシワが更に深くなった。だがこっちだって、そんなことに構ってはいられないんだ。


 翔さんは、即答で返事をした俺を少し睨んで




「…わかった」



 そう言って、近くに居た彰さんに声をかけ、俺と一緒に外に出た。




「で?……一舞がどうしたって?」


「……泣き止まなくて手がつけられないんです」


「は?」


「……」


「…誰か……一舞に何かしたのか?」


「…いえ」

(それがわからないから困っているんだ!)


 とてつもなく拍子抜けしているようだが、ゆっくり説明する気にはならない。

 多少の苛立ちを感じながら、翔さんを促して、地下スタジオに向かう。


 いつもマイペースにゆったりと歩くはずの翔さんは、いつになく早足だ。

 地下へ降りる階段を小走りで駆け下りて、急いでスタジオのドアを開ける姿がまた意外で気分が悪い。


 スタジオの中に入ると、もはや暴れてはいないが、グッタリと疲れきった涼の腕の中に一舞はまだ納まっていた。

 その肩はまだ震えていて、いまだに泣いているんだろうとわかる。




「翔くん……悪いけど…」


「…………」



 涼は、一舞の体を離した途端に腹を押さえてしゃがみこんだ。



「……」

(…俺がいない間に相当殴られたらしいな)


 ようやく解放された一舞は、ふらつきながら出口に向かって歩き出す。




「……一舞?」



 すれ違いざまに一舞の腕を翔さんが掴んだ。また大騒ぎするかと思ったのに、一舞は固まっている。




「ほら…顔見せろ」



 さっきまでのピリピリした雰囲気はどこに行ったのか、翔さんは優しげな声で一舞に言葉をかけている…。

 一舞もゆっくり振り返り、されるがまま顔を拭かれているんだが…



(…なんだよコレ)




一舞
「……」


「…落ち着いたか?」



 顔を覗き込み問いかける翔さんに、一舞は静かに頷いた。そして、そのまま抱き寄せると…




「ちょっ!!」


「あぶなっ!!」


「!!」


「!!!」



 俺たちの心配などどこ吹く風…一舞の腕は、スルリと翔さんの背中にまわった。



「わ!?なんだよそれ〜…」


「…そういうことか」



「てかお前ら…ちょっと出てろ」


「は?何言ってんの?」


「ちょっと頭冷やして来いって言ってんだよ」


「俺ら悪くないのにぃ」


「じゃあ…そこで見ていたいのか?コレを…」



 そう言って、翔さんに抱きついた子猿みたいな一舞を指差すと、俺の体がドッと重たくなった気がした。


 俺たちは渋々、外に出ることにした。



……………



………








 リビングフロアまで上がるったところで涼が口を開く。



「……てか…気にならね?」


「……」

(…気にしてどうする。そして何故俺に言うんだ)



「……だいたい想像つくだろうが」


「…そうだけどさ」



 …想像なんかしたくない。


 あの…一舞の懐き方を見たら、だいたいの察しはつくじゃないか。



(防音扉がこんなに疎ましく思えたことはないな…)



 俺も涼もそれ以上何も言えず、顔を見合わせて肩を落とすしか無かった。






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