愛憐2



―――――――side 涼


一舞
「もうっ!離してよー!!」



 俺に腕を掴まれたまま、泣きながら抵抗している一舞。

 それにしてもなんなんだこの状況…

 泣いているせいなのか、今のコイツはいつもみたいな馬鹿力が出ないらしく、俺の手をふりほどけないでいる。

 というか俺も混乱しているのか、掴んだ腕を離すに離せないし、こんなに泣きじゃくっているのを放っておくことなんか出来るわけがないんだ。

 俺はとにかく、なんとかして泣き止ませなければと、パニックになっている一舞の体を引き寄せた。



「あっ!?」


「おいっ!」


(なんだよウッセーな)


 どうせ俺の行動がマズいとか言うんだろ?元カレがでしゃばんなとか言いたいんだろ。でも今は、そんな細かい事を言っている場合じゃない。


(とか、自分を正当化してみるけど…ぶっちゃけ、これはこれで…)




 ドカッ!!  ドスッ!!




「ぅぐっ!いてっ!!」

一舞
「やぁーだぁー!!」


(うおー…!痛っ…てぇ〜…!)



 俺が抱きしめた途端、さっきまでの非力さが嘘のように、一舞が凶暴化した。

 悲鳴に近い叫びと共に、俺の腹めがけて拳をガンガン打ちつけてくる。



(役得…とか思ったけど撤回します!)

(きっと俺、後で痣だらけになるんだろうなぁ…てか普通の男ならドン引きもいいところだぞお前…)


 凶暴化したからといって、腕を緩めるのは悔しい。とにかくコイツが落ち着くまでは離してなんかやるもんか。


 人前で泣きたがらない理由の一つなのか、今の一舞はまるで3歳児だ。

 まさかここまで凄い事になるとは思っていなかった。

 これ以上どうしたらいいのかなんて知らないが、普段あまり我が儘を言わない分こういう時に日頃抑制しているものが出てくるだけなんだろう。


(なんでもいいから早く泣き止め!)



「離してやったほうが良くね?」


 歯を食いしばって一舞の攻撃に耐えている俺に向かって、洋が後ろから呟いた。



「…やだ」


「やだとか意味不…涼まで3歳児になってんだけど」


「だったら…イテっ…洋はコレ、どうするんだよっ」


「えぇ〜?そんなのわかんないよ〜!」


 洋の言うとおり放っておいてやれば良いのかもしれないけど、ダメなんだ。俺が。

 放っておいちゃダメな気がするんだ。




〜♪♪♪〜♪♪♪



「?」


〜♪♪♪〜♪♪♪




「…一舞のケータイ…………鳴ってね?」


「……光ってるな」


「…?」



 一舞がギャーギャーと騒ぐ声の中、聞こえてきた某バンドの名曲。

 スタジオ端のテーブルに置かれた一舞の携帯電話が着信を知らせて光り、けたたましく着うたを響かせている。


 俺たち4人は、どうしたものかと目線を交わす。

 洋は「無理無理!」と首を横にブンブン振っているし、照は知らん顔。 

 蓮は何かを思案する顔で、俺と一舞を見て、ため息をついた。



「…はぁ」


 仕方がないなという顔で、着信を知らせて騒いでいる一舞のケータイへと近づく。




「…電話だな……なぁ涼」


「なに?」


「…ディスプレイに透瑠さんの名前が表示されているんだが、出た方がいいのか?」


「えぇ〜?」

(なんで兄貴が電話とかしてくんだよっ!)



「たぶんだが、そろそろ切れるぞ」


「っあーもー!出て!」



 兄貴からの着信については色々言いたいこともあるけど、今はそこに縋るしか無い気がする。




「もしもし、蓮です。今ゴタゴタしていて一舞が出られないので…」


「…っ」



 腹が立つくらいに落ち着いた感じで兄貴と話している蓮を、とりあえず黙って見ていると、意外に早く電話は切れたらしく、蓮はすぐさま俺の方に顔を向けた。




「……納得がいかないんだが…」


 そう言って、もの凄く不機嫌な顔になっている…。



「はぁ?」


「……納得はいかないが…呼んでくる」


「はぁ??誰を?」


 問いかけた俺に向かって、蓮は不機嫌丸出しの顔のまま




「翔さん!」



 そう言って、乱暴にドアを閉めて出て行った。




「……は?」


「…なんだよアイツ」


「意味わかんねーな」


「………」

(つーか……俺に当たんなよ…)



 一舞はまだ泣き止まない…。







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