恋病8




 仲直りらしきキスに、あたしの脳は再びグルグルし始める。


 時刻は朝の7時を過ぎて、朝日はすっかり登りきっているのに。翔が部屋を出て行って、ずいぶん経つのに。




〜♪




 ベッドの上で、眠れないままゴロゴロしていると、突然、サイドテーブルに置いてあった携帯電話が鳴った。


(きっと透瑠くんだ…)



 ゆっくりとケータイを開くとやっぱり、元気そうな明るい文字たちが目に飛び込んできた。



――――――――――――

おっはよん(^∀^)/

眠れてるかな?

寝てる間に居なくなってごめんね。

早く翔と仲直りできるといいね
――――――――――――


一舞
「……」

(…透瑠くん)


 なんでこの人はこんなに優しいんだろう。本当なら自分の体の方が大変なはずなのに…。


 あたしは、グルグルする思考をなんとか抑えて透瑠くんに返信する。

 翔とは仲直りできたこと、ちゃんと話さないと…。




……………



………








 …数分後。




〜〜♪♪♪…


一舞
「!」

(電話だ…)



一舞
「もしもし」

透瑠
『もっしー!おはよう一舞ちゃん!』

一舞
「うん、おはよう」

透瑠
『仲直りすんの早いねぇ。ふふん、俺が居なくなってから何があったのかな?』

一舞
「……」

(あ…)


一舞
「べっ…別に何も」

(うわ、どもっちゃった)


透瑠
『分かりやすいなぁ、まぁそこが可愛いんだけどさぁ』

一舞
「…ありがとう…透瑠くんのおかげだよ」

透瑠
『ん〜?べつに、透瑠くんは一舞ちゃんの顔を見に行っただけですよん?』

一舞
「……翔からね……話聞いたんだ」

透瑠
『………あぁ…はは…あれは気にしないで』

一舞
「…気になるよ」

透瑠
『ふふ…ん〜、それは嬉しいけど困ったな…』

一舞
「………」

透瑠
『じゃあ話すけど。俺は、医者に言われた事を信じてないわけじゃないんだけどね?…なんて言うのかな……だからってしょんぼりして、時間を無駄にするのは嫌なんだよね』

一舞
「………うん」

透瑠
『だから、その時こうしたい!って思ったらやっちゃう的な?後先考えてる時間がもったいない的な?だから、一舞ちゃんのところに行きたいと思ったから行く!みたいな』

一舞
「でも…じゃあバンドは?」

透瑠
『バンドの事は仕方ないんだよね。先にピアノでどうにかなってやろうって思っちゃったから。どちらかを選ばなきゃならない時も…そりゃあ普通にあるじゃない?』

一舞
「………そだね…」



 確かに、もっともな事を言ってるけど、そんな単純に気持ちがハッキリするものなのかな…。



透瑠
『あと…俺はね?小さい時からこんな体だから、ぶっちゃけると、結構前からそういう覚悟はしてて…。具体的に数字を言われたのは初めてだけど、逆に助かったと思ってるんだ』

一舞
「…え!?……」



 《助かった》なんて言うから、驚いて少し声がうわずった。



透瑠
『期限がわかってスッキリしたって感じかなぁ……って、わかんないよね〜』

一舞
「…わかんないよ」

透瑠
『ふふ…ずっとね。この自分の体がいつ動かなくなるのか不安だったんだよ。子供の頃からね…』

一舞
「………辛かったね」

透瑠
『んふふ、でも、だから…余計にやりたい放題やってきたんだけどね。だから可哀想とか思わないでよ』

一舞
「…」

透瑠
『まぁ…医者の言う事だって仮定の話だからさ、もしかしたら25過ぎてもメチャクチャ元気かもしれないし』

一舞
「…だといいな」

透瑠
『ふふ…ねぇねぇ一舞ちゃん』

一舞
「ん?」

透瑠
『っていうかそんなことより、翔とどんな風に仲直りしたのか教えて?』

一舞
「え……べつに普通に…」

透瑠
『いやいや、透瑠くんを甘く見ちゃダメですよ一舞ちゃん。俺が翔と何年付き合ってると思ってんの』

一舞
「えぇ〜?…だったら言わなくてもわかってるんじゃないの?」

透瑠
『あらま、じゃあやっぱり透瑠くんの思った通りなのかな?え〜?や〜らし〜!』

一舞
「やっ!?やらし〜って!何考えてんすか!!」



 本当に、透瑠くんって計り知れない…。

 このままじゃ本当にさっきまでの事を話さなきゃならなくなりそうだ。

 あたしはなんとか誤魔化して電話を切った。




 …透瑠くんはきっと、ずっとあのままなんだろう。

 だとしたら、あたしが変に気をつかうのは逆に良くないのかもしれない。



 何か力になれたら…そんな風にも思うけど。


 今まで通りにしよう…


 仮定の話が、崩れてくれるのを祈って…。






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