恋病4



――――――――――side 一舞


 深夜2時。

 眠れずベッドを出る。そして、なるべく物音をたてないように一階に降り、テラスから外に出た。


 そこから見える夜の海があまりにも真っ暗で、それを眺めているとなんだかクラクラする…。


 近くに置いてあるベンチに座り、今度は星空を見上げた。






(…あたし…この大事な時期に何やってんだろ)


 翔に言ってしまった言葉…思い返すと後悔が押し寄せる。

 翔が悲しい思いをしてることは、わかっていたはずなのに…。



 ウジウジ考えるのは、本当は好きじゃない。考えていたくない。

 心にモヤモヤをしまい込んだまま、何も変わらない時間を消費していくなんて、そんなの…たぶんあたしらしくない。

 だから本当は、翔ときちんと話しがしたい。

 だけど、そう思いながらも少し、怖くて…何も出来ず、ただ考え込むばかり。



(…翔…眠れてるかな)






 キキィッ!…




    バタンッ




ザッ…ザッ…ザッ…





(え?)


 車が停車して、誰かが降りてきた音が聞こえて身構える。

 ここは私有地だから、勝手に入ってくるとしたら身内しかいないはずだけど…こんな真夜中に来客なんて、不自然だ。

 あたしは、溢れかけた涙を拭い、立ち上がる。

 もし不審者だったら追い払わなきゃ。そう思ったから。

 だけど…



(わっ!?)


 立ち上がろうとした途端、グラグラと視界が揺れて、うまく立ち上がれなかった。


(…また?)


 フラフラとした体の感覚が、少し前の体調不良に似ていて、我ながらウンザリする。


(あたしこんなに弱かったっけ…)



 少し情けない気分になって、でも、言うことを聞かない体をどうすることもできず、ベンチに手をついて動けなくなっていると…


??
「一舞ちゃん大丈夫?」


 そう言いながら抱き起こしてくれ、細い腕。


一舞
「!……あ…透瑠くん?…本当に来ちゃったの!?」

透瑠
「…当たり前でしょ。俺はやるっつったらやるの」


 穏やかな声でそう言って、優しく微笑む。

 まるで王子様のように現れた透瑠くんの細い腕に支えられて、ちょっとだけ安心しているあたしが居た。









 あたしはそのまま、突然現れた透瑠くんその両腕に、体を抱きかかえられるようにして部屋に戻った。


透瑠
「顔色悪いね一舞ちゃん…あんまり寝てないでしょ」


 あたしをベッドに座らせながら、透瑠くんは心配そうな顔をした。


一舞
「…だって…眠れなくて」

透瑠
「……わかった。じゃあ眠れるまで此処に居てあげるよ。だからホラ、ベッドに入りなさい」


 彼は優しくそう言うと…


一舞
「ひゃっ!?」


 急に軽々とあたしを抱き上げて、ベッドの上に寝かせてくれた。


(…てか、思ってたより全然、力があるんだ)


透瑠
「ふふん。何考えてるか当てようか?」

一舞
「え!?」

(マズい、読まれた)


透瑠
「ふふ…読まれたのがわかったんだねお利口さん。透瑠くんだって、女の子1人くらい抱っこできますよ〜」


一舞
「……」

(あぁ…もう…透瑠くんには何も隠せる気がしない…)


透瑠
「ビックリさせてごめんね。てかもう寝て。ちゃんと休まないとね」



 ベッドの脇に座って、あたしの顔を見ながら優しく頭を撫でてくれる…けど、こんな事してもらっちゃっていいんだろうか…?

 そんなあたしの戸惑いを余所に、透瑠くんは頭を撫でながら、もう一方の手であたしの手を優しく握ってくれている。

 その顔はただ微笑んでるだけで何も言わないけど、それがなんだか凄く安心できて…おかげでようやく眠気がやってきて、あたしの脳を休ませ始める。



 なんとなく…透瑠くんに言わなきゃいけない事があったような気もするけど、どうしようもない眠気にそれは遮られた…。







……………



………







 そして…眠りに堕ちた夢の中で…






透瑠
「…1人で辛かったね……でも…強くなってね…」




 そんな、透瑠くんの声が、聞こえた気がした…。











 …そうだよね。

 こんな弱いあたし、このままなんてダメだよね…


 …シッカリしなきゃ。






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