恋病2




透瑠
『…ていうかさぁ……メールの文面もそうだけど、声も元気ないね?』


 先ほどまでのテンションの高さから打って変わって、柔らかく気遣うような声色が耳元に響いた。


一舞
「…うん、ちょっとヘコみ中」

透瑠
『…俺で良ければ聞かせていただけませんか?お姫様』

一舞
「……」


 耳元で優しく問いかけられて、あたしは無意識に、その声の雰囲気に寄り掛かってしまいそうになる。

 これが透瑠くんの魔法なのか、つい口を滑らせてしまいそうだ。


一舞
「………どう、話していいか分かんないから…ちょっと無理かな」

透瑠
『…ん〜、それは寂しいなぁ……えっと〜、ちょっと待ってね、当てるから』

一舞
「…え〜?当てられる〜?」

(てか本当に当てちゃいそうで怖いなぁ)


透瑠
『俺は魔法が使えるからね〜………あ…分かった』

一舞
「え!?」

透瑠
『翔と喧嘩したでしょ』

一舞
「…透瑠くん」

透瑠
『あれ?違ったぁ?』

一舞
「…本当は知ってたんじゃないの?」

透瑠
『そんなわけないじゃん…てか当たりなんだね』

一舞
「…あれを喧嘩と言うなら…そうなのかも」

透瑠
『…大丈夫?…翔に何言われたの?』

一舞
「…透瑠くん…翔が一方的に悪い前提になってるよ」

透瑠
『だって翔が悪いもん。いいかい?男と女が喧嘩したら、例えば原因が女の子にあっても責任は男にあるんだよ』

一舞
「そんなの初めて聞いたよ」

透瑠
『誰が認めなくても俺はそう思ってるからね。女の子を悲しませる男はどんな理由があっても悪者だよ』

一舞
「……」


 すごい力説……何て言うか透瑠くんらしい見解だ。

 でも、透瑠くんの考え方は女子としては嬉しいけれど…やっぱりソレとコレとは違う気がする。


(…てかどっちが悪いとか関係あるのかな)


 確かに、翔の言葉には傷ついた。けどあたしの行動だって良くないのかもしれないし…

 だから今回の事は喧嘩と言うより……


透瑠
『はいはい電話中だよ〜、一舞ちゃ〜ん、1人でどっか行かないの〜』

一舞
「あ…ごめん、うっかりトリップ」

透瑠
『…ん〜…でも困ったなぁ〜…』

一舞
「…何が?」

透瑠
『そんな悲しそうな声聞いたら、コンクール前なのに集中できなくなっちゃうよ』

一舞
「…透瑠くん…分かってて電話くれたくせに」

透瑠
『だって心配なんだもん。俺は君のためなら何でもするよ。だからもっと頼ってよ』

一舞
「…何でもなんて無理だよ」

透瑠
『決めつけちゃダーメ!俺はやるっつったらやーるーの!わかった?じゃあ後でそっち行くからね!ばいばーい♪』

一舞
「えっ!?透瑠くん!今何て!?」


 …とか言っているうちに電話は切れていて、通話の途切れた音だけが耳に響いていた。


(透瑠くんてなんだか計り知れない感じがあるなぁ…本当は全部緻密に計算してたりして)






ザザー…ン……





  ザザー…ン……






 透瑠くんとの会話を終えてから数分。

 あたしはまだ砂浜に座り込んだまま。

 さっきまで耳元で騒いでいた携帯電話は静かにポケットにおさまって、波の音だけを聞いている。


 …この頃シャキッとできないのは、単純にあんまり眠れていないせい。


(せっかくこんなに綺麗な場所に来てるのに、あたしはずっと考えてばっかりだな…)


 なんだか凄く寂しい気持ちになって、あたしを抱きしめてくれた翔の腕を思い出してしまった。

 自分がいったいどうしたいのか、本当は分かっている。本当は翔のことが凄く心配だし、このままでいいわけが無いのもわかっている。

 だけど…またあたしが、翔を悲しくさせてしまうかもしれない…そう思うとやりきれない。

 あの夜、翔に会えたことがあんなに嬉しかったのに…少しのキッカケでこんなにも苦しくなるなんて…


(せっかく自覚したのに…)


 あたしは、気づいてしまった気持ちを、どう処理していいかわからずにいた…。





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