恋病1




 合宿も10日目となり、あたし達のグループは順調に曲作りを進めていた。でも、紙の上で文字や記号を走らせることは出来ても、うまく歌うことが出来なくて、みんなに迷惑をかけてしまうあたしが居た。


♪♪〜♪〜

一舞
「ーっ!」


「…ミスなんて珍しいな」

一舞
「……ごめん」


「…どうした?何かあるなら言え」

一舞
「…ううん、何も無いよ」


 テンションなんか上がるわけないし、集中力だってどこへやら…。

 翔と口論になってしまったあの夜の出来事。あれが、思っていたよりショックが大きくて…あたしの中に重く残っているのだ。


 翔があんな風に思うということは、今までのあたしはやっぱりきっとダメな奴だったのかもしれない。そんな、自信喪失にも似た思考が頭を支配する。

 それと同時に、自分でも信じられないくらい傷ついている。


(はぁ…ホントにダメだなあたし)


 せっかくみんなが元気を出してくれたのに、今度は自分が足を引っ張るなんて…。



「…お前、顔色悪いぞ」


 ウダウダ考えているあたしを見かねて、涼ちゃんは心配そうに歩み寄る。


一舞
「…何ともないって」


 あまり心配をかけるのも良くないと思い、なんとか笑って見せる。



「無理に笑わなくていいって…すげー不自然」

一舞
「う…」


 精一杯の作り笑顔も却下される。



「…本当に大丈夫か?」


 あたしの下手くそな笑顔で余計に心配になったのか、涼ちゃんはあたしの顔を覗き込んだ。


一舞
「だっ!大丈夫!ごめん!ちょっと気分変えてくる!」


「え?…おぉ…」


 あたしは慌てて彼の視線をかわし、1人地下スタジオを出た。






 リビングまで上がると、別スタジオで作業をしていたはずの大人グループが、全員そこで寛いでいた。

 もちろんその中には翔もいて、窓際にあるカウチで、なんだか気だるそうに外を眺めていた。

 なんとか気づかれないように出られないものかと考えていると、思いっきり、学ちゃんと目が合ってしまった。



「お?どうした?」


(う〜、やっぱ気づかれずに通り過ぎるのは無理か…)


 あまりここに居たくはないけれど、声をかけられたのに無視するのもおかしいし、話さないと変に思われるだろう。そう思ってあたしは、一生懸命笑顔を作って応えた。


一舞
「ちょっと集中力が切れちゃったから、気分転換しに行くところだよ」


「そうか、まぁ地下に籠もってんのもキツいよな」

一舞
「あは、まぁね…学ちゃん達も休憩?」


 自分でそう言って、話しながらうっかり、そこに居る彼らへ目線を向けてしまった。

 しまったと思った時には翔とバッチリ目が合ってしまっていた。

 すぐに逸らしてしまったものの、これでは更に気まずい。



「まぁ休憩っつーか…ヤローばっかで缶詰めになってると、色々問題も起きるんだよな」

一舞
「あはは、なるほど」

(うまく笑えてるかな…)



 もうこの場に居るのも限界だ。とにかく話を短く済ませて、なんとか外に出た。





 玄関を出て、海辺へと続く階段を駆け下りる。

 そして砂浜に降り立った瞬間、体の力が抜けて座り込んでしまった。


〜♪


 そんな、独り砂浜に座りこんでいると、ポケットの中でケータイが鳴った。

 ゆっくりとそれを開くと、透瑠くんからのメール。


―――――――――――

こんちわ(^O^)/
透瑠くんだよ★
一舞ちゃんからのメールが欲しくなって送信中だよ♪♪

元気かな?


―――――――――――


 相変わらずなんてタイミングがいいのか…でも、どこかで見てるわけでは無いらしい。

 あたしはすぐに、そのメールに返信をしたのだけれど、もしかしたら物凄く素っ気なかったりしたのかもしれない。だって…



〜♪♪♪〜♪♪♪


一舞
「わっ!ビックリした!?…てか電話!?」


 透瑠くんから突然、初めての電話。


〜♪♪♪〜♪♪♪〜♪♪♪〜♪♪ピッ!


一舞
「…もしもし?」

透瑠
『もっし〜!えへへ〜電話しちゃったよん』

一舞
「ビックリしたよ…出ようかどうしようか普通に迷っちゃった」

透瑠
『えー!迷わないでよ〜!』


 相変わらずの明るい声…とても元気そうだ。

 まさかこんな風に、透瑠くんと電話することになるなんて思っていなかったけれど、今はそのハイテンションな声がとても救いのように思えた。




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