進化10




ぎゅうぅ〜…っと抱きしめられて、これはこれでドキドキだし、嬉しくもあるんだけれど…



一舞
「…っ……翔…ちょっ……と苦しい」


「…ごめん…でも…もう少し…このまま……」

一舞
「………?」


 あたしに応える翔の声は、まるで絞り出すみたいに苦しそう。

 いったいどうしたのか、どこか痛いところでも…?なんて思っていたら…




「…………」


 急にあたしの頭に顎を乗せて、微妙にその雰囲気を変えた。


一舞
「……ん?」


「…ん……いや。さっきは気づかなかったけど、ほっそいくせに意外に育ってるな…と思って」

一舞
「???…何言ってんの?」


「ふはっ」


 頭に顎を乗せられたままで、翔の笑う振動が耳まで伝わってくる。


(てか…《さっき》って…いつ?)


一舞
「…もしかして」


「…ん?」

一舞
「…翔があたしを、部屋まで運んでくれたの?」


「…あぁ…そうだよ」

一舞
「……そうなんだ」


「たまたま…シャワー使いたくてコッチに来たら一舞がここで眠ってて。涼と蓮が、どっちが上まで運ぶかで競ってたんだ」

一舞
「……えぇ〜?」


「ふっ…だから…だったら俺が…って」

一舞
「…そっか……ごめんね、重かったでしょ」


「…ふふん」

一舞
「え!何その笑い」


「ん?…ふふ…重くなんかないだろ、こんな細い体」

一舞
「…細くもないと思うんだけど」


「ん〜まぁ…………気持ち良かったよ」

一舞
「きっ!?」

(気持ち良かったとか!変な言い方しないでほしい…!)



「なぁんか、スタジオ戻りたくねーな…」

一舞
「…曲作り…大変そうだね」


「…まぁちょっとキツいな」

一舞
「……」

(そういえば翔の顔…やつれた感じになってたっけ…)


一舞
「…眠れてる?」


「…ん〜?……うん」

一舞
「……」

(…寝てないんだ)


一舞
「そんなに煮詰まってるの?」


「……寝てない前提で話進めてるな」

一舞
「だって絶対寝てないもん」


「…大丈夫だよ」

一舞
「……………ご飯は?」


「……あ〜………ね」

一舞
「…カワイコぶってもダメ」


「厳しいっすね」

一舞
「…だって…そんなことしてたら、デビューする前に死んじゃうよ」


「……」

一舞
「…?」


 突然、あたしを抱きしめていた翔の腕が離れた。

 驚いて彼の顔を見ると、とても悲しげな表情をしている。


一舞
「…翔?」



 抱きしめてくれていた腕を離されて、体に触れる空気を冷たく感じながら、目の前にある、悲しそうな顔の翔を見つめる…。そんなあたしの視線に気づいていながら、目を合わせてはくれない。



「もう部屋に行け。…俺も戻るから」

一舞
「…だって、そんな顔見て戻れないよ。…翔はどうしたら元気になってくれるの?」


「今は無理」

一舞
「どうして?」


「……俺は…引きずるタイプだからな」

一舞
「…だとしても…引きずり過ぎだよ」


「………」

一舞
「透瑠くん…頑張ってるのに…」



 つい責めるような言葉があたしの口を突いて出る。

 言い終えた瞬間、空気が凍りついた気がした。




「……お前は…」


 はぁ…っとため息混じりに翔は呟いた。




「誰にでもそうなんだな」

一舞
「……何が?」


「…さっきまで気分良かったのに…一気に冷めた」


 そう言って漏らしたその声には、ほんのり怒気が混じっている。


一舞
「…何言ってんの?」


 わけがわからず翔の顔を見据えて問い質すと


一舞
「…っ!」


 初めて会った日のような温度の無い視線が、あたしに注がれた。



「…………どうせ…そうやって弱ってんの見ては、すぐにハグしたりキスしたり…誰にでもやるんだろ」


一舞
「!」

(…何それ!?)



「…今だってそうだ………透瑠にも…簡単に抱かせてたもんな」

一舞
「…!」


「……俺もバカだな」

一舞
「…ホント馬鹿だね」


「は?」

一舞
「…あたしが何も分かんないと思って言ってんでしょ」


「分かってないだろ」

一舞
「いいよ…分かった。もう翔のことなんて心配しない…」


「……」

一舞
「いつまでもそうやってイジケてればいいんだよ…」


「は?べつにイジケてねーし」

一舞
「イジケてないならなんなんだよ!」


「お前にイラついてんだよ!」



(…こんな翔、なんか嫌だ)


 だけど、おかげであたしは分かってしまった…。


一舞
「………だったら言わせてもらうけど」


「……なんだよ」


 あたしに冷たい視線を向ける翔を見てると、なんて甘ったれなんだろうって思う。

 もう、ハッキリさせたほうがいいよね…。


「……早く言え」

一舞
「…例えば…仲間が泣きそうな顔してハグを求めてきたら、あたしは拒否しない。でもそれは…大切な仲間だと思うから、そうしてきただけ」


「………」

一舞
「だけどあたしが自分からキスしたのは…翔が初めてだから。てか…仲間だと思ってるからってそこまでしない。あたしだってその辺の区別くらいあるよ」


「……………」

一舞
「…はぁ……もういいや……早くシャワー使えば」



 あたしに言い返しても来ない翔を置いて、スッとソファーから立ち上がり、あたしはその場を去る。


 言い表せない感情を抱えて…。




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