進化9 久しぶりに触れた頬の感触に、あたしの胸は締め付けられた。 今にもその音が聞こえそうなくらいに…。 翔 「……」 一舞 「…あ」 触れられた事に気づいたように、瞼がピクリと動いて、翔は目を開けた。 翔 「………ん…?」 一舞 「!」 そして、寝ぼけた顔であたしを見つけて微笑む。 (…なんだろう、この気持ち) 一舞 「……」 翔 「…?」 あたしを見つけて、すごく安心した笑顔を見せてくれた事が嬉しい。会えたことが嬉しい……。 一舞 「………」 ![]() 翔 「!??」 一舞 「……」 翔 「…………か…」 一舞 「………」 翔 「………かず…ま?」 一舞 「!?」 (え…?あたし今…) 翔 「いやいや、お前がビックリした顔すんな」 一舞 「えっあ…えっと…あれ?」 自分のしたことがよくわからなくて狼狽えるあたしに、翔が静かにゆっくりと、艶やかな声で囁いた。 翔 「…なぁ一舞、今の……何?」 あたしの目を見ながら聞いてくるけれど、自分でもわからないことを説明するのは難しい。 答えられなくて黙ってしまうと… 翔 「……無意識?」 更に距離を詰めて、聞いてくる。 一舞 「え〜…っと」 …いやきっと。てか確かに。今のは無意識としか言いようがないかもしれない。 ただ、そうは思っても、そのまま答えることは出来ない気がした。 動揺を隠せないあたしの耳に、今度はさっきよりも甘い声が響く。 翔 「…俺に会えて嬉しいの?」 そう言って質問を変えてくるから 一舞 「……う…れしいよ?」 素直に答えたら… 翔 「じゃあ嬉しくてしちゃったのかな?…ココに」 一舞 「!!」 って…翔は、自分の唇に指を当てて、意地悪に微笑んだ。 あたしは途端に恥ずかしくなって目を逸らしたんだけど、すぐに翔の手が伸びてきて、シャワーから出たばかりでまだ濡れたままの髪に触れる。 あたしはもう彼の顔が見れなくて、少し下を向いたまま…翔の指が、自分の髪を触る感触でドキドキしている。 そんなあたしを分かっているのか、翔は少しもトーンを変えず 翔 「…俺も嬉しい」 そう言った。 そうやって何か言われるたびに、信じられないくらいあたしの鼓動は早くなる。 (凄く苦しい…もしこれ以上何かされたら、あたし死んじゃうかも…) 早くこの状況をどうにかしたい。逃げ出してしまいたい。 あたしはいったいどうしたというのだろうか。 無意識で自分からキスするなんていったいどういう理由があったら成り立つのか、あたし自身が教えてほしいくらいだ。 今すぐ消えてしまいたい、。そう思えてしまうほどに恥ずかしくて堪らないのだけど、翔がクルクルとあたしの髪を玩ぶから、あたしの胸の鼓動は早まるばかりで動けない。 とにかくどうしていいかわからなくて、ギュッと目をつぶってしまった…。 翔 「…一舞?」 自ら視界を遮断したあたしの耳に、少し驚いている翔の声。 翔 「お〜い…一舞〜?」 何度も名前を呼ばれるけど、声が出ないので、返事ができない。 一舞 「……」 (だって、恥ずかしいよ…) 翔 「……ごめん」 一舞 「!……?」 急に謝られたことに驚いて、パッと目が開いて翔の方へ視線が向いた。 翔 「…からかってるわけじゃねーから」 一舞 「……」 (あ、困ってる…?…でも、声はまだ甘いまま…) 翔 「…嬉しかっただけ」 そう言って、真っ直ぐあたしを見る翔の頬が少しだけ、ほんのり赤い気がする…。 一舞 「…」 翔 「…」 なんだか…まだドキドキはおさまらないけど、真っ直ぐあたしを見るその目から、まるで時間が止まったみたいに互いに視線を逸らせない。 翔 「……」 一舞 「……」 (息……止まりそう…) そう思った次の瞬間。髪を弄んでいた翔の手が、あたしの頭を引き寄せた。 一舞 「!」 抱きしめられる形になったあたしの胸が、更にドキンッと高鳴る。 翔 「…タバコ臭かったらごめんな」 一舞 「?」 優しい声でそう言われて、抱きしめられてるのに何故か、あたしの心拍は正常に戻ったみたいに静かになった。 タバコの臭いもするけど、それもなんだか安心できるというか、気にならない。 翔 「…先にシャワー入っとけばよかったな」 一舞 「……」 (…よっぽど気にしてるんだな、タバコ臭…でも) 一舞 「………大丈夫……コレも翔だもん…」 やっと言葉が出たと思ったら、あたしいったい何を言ってるんだろうか。 翔 「ふっ…可愛いこと言うね」 翔の優しい声と共に、あたしの体にまわされた腕に、力がこもる…。すると今度は違うドキドキが始まって、また胸がギュウギュウと音を立てる。 一舞 「……!!」 (あたし、どうしちゃったんだろ…?) Novel☆top← 書斎← Home← |