進化7 涼 「そっか…蓮がね…」 一舞 「……」 蓮ちゃんからの告白の事を話したら、涼ちゃんは初めて知った…って顔で相づちを打った。でも涼ちゃんの性格からして、気がついていなかったとは思えない。 だって相手は蓮ちゃんなんだから。 (だから話してんのにな…) 彼らの中ではそういうルールなのかもしれないから、そう思っても言わないのが正解なのかもしれない。 涼 「…で?…返事は?」 一舞 「…うん。嬉しかったけど…あたしがダメだから、断っちゃった」 涼 「…そっか」 一舞 「…うん」 断った、という事実に対して、涼ちゃんがとても残念そうな顔をするのが不思議だ。 涼 「……翔くんは?」 一舞 「……?」 涼 「……」 一舞 「…ちょっと待って、なんで翔が出てくんの?」 涼 「いや…なんとなく?」 一舞 「…な」 (なんとなくって…) 一舞 「……それ、蓮ちゃんにも言われたよ。翔の事が好きなのか〜って」 涼 「…実際はどうよ?」 一舞 「…え〜?」 涼 「……」 一舞 「ん〜…わっかんない」 涼 「……わっかんない…ねぇ」 一舞 「…わかんないもん、そうとしか言えない」 涼 「…まぁ、しょうがねーか」 一舞 「そうだよ。そんなこと考えたことないし」 涼 「だよなぁ…一舞に翔くんじゃ、ハードル高いもんな。ふはっ」 一舞 「何それ?」 涼 「知らね。くくっ」 一舞 「……」 あたし達が別れたのはついこの前だ。 あたしの気持ちが幻だったと気づいた以上、恋人でいるわけにはいかなかった。だからこちらから別れを告げるべきだっただろうし、友達に戻れるなんて、本来なら無い話。 あの時別れを切り出した彼の気持ちを考えたら、こうしているのも本当はダメなのかもしれない。そんな考えが過る。 蓮ちゃんの事だってそうだ。あたしの意思は伝えたけれど、だけど結果はそれだけで、彼を傷つけてしまったことに変わりは無い。 たとえ許してくれたとしても、このまま、友達で居ていいのかさえ不安になる。 一舞 「……」 (あたしって…なんなんだろう) 鈍くて、物を知らなくて、誰かを傷つけてばかり。なんだか自分に腹が立つ。 涼 「…そんな顔しない」 一舞 「ひっ!?ひたたっ!!」 突然、涼ちゃんの手が、あたしの頬を摘んで軽く引っ張った。 涼 「ふはっ可愛い可愛い」 一舞 「なんらよもぉ〜!」 あまりの痛さに彼の顔を軽く睨む。 頬を摘ままれたままのあたしの視界に入った涼ちゃんの顔は、優しい笑顔に彩られていた。 涼 「…蓮の事も俺の事も、一舞は一舞なりに考えてくれたんなら大丈夫だろ」 一舞 「………」 (あたしの考えてることがわかるんだ?) 涼 「俺は、一舞が正直に意思を伝えたのは良い事だと思う。蓮に嘘は通じないし、友達として騙しなんてあり得ないしな」 一舞 「…うん」 摘まんでいたあたしの頬をそっと離して、いい子いい子と頭を撫でまわす。 涼 「可愛い可愛い、よくできました」 一舞 「………」 おかげで髪はグシャグシャになってしまったけど、涼ちゃんの優しさが嬉しかった。そしてついつい甘えた事を口走る。 一舞 「…いつか…あたしがもしか、誰かを好きだって気づいたら…相談にのってね、涼ちゃん」 涼 「………」 あたしの頭を撫でていた彼の手が止まる。 なんだかんだ言って、こんな言葉が出ちゃうあたしは、やっぱりまだコドモだ…。 涼 「…え〜?お前、残酷」 一舞 「…だって」 涼 「…いいよ。聞くだけ聞いてやる」 一舞 「ありがと…」 それからあたしたちは、しばらく2人で話していた。 別れてからまともに話す機会が無かったから、以外にも話したかった事が沢山あるのだ。 そして、あたし達の話題は、透瑠くんの話になる。 その名前を出すと、涼ちゃんの表情は一変して、昼間見た弟の顔に変わった。 一舞 「初めて会った時かな、ピアノ聴かせてもらったの」 涼 「へぇ…」 一舞 「あたし、透瑠くんは確かに変わってるとは思うけど、嫌いじゃないよ。むしろ好きな感じかもしれない」 涼 「俺だって…兄貴の事が嫌いなわけじゃないんだよ…」 一舞 「…うん」 …ふと、仲が悪いんだとしか思えなかった初対面の日を思い出す。 あの日は結局、あたしと涼ちゃんの恋人としての最後の日になってしまったけど、透瑠くんのピアノに癒されて、あたしは本当に救われた。 一舞 「……透瑠くんって優しいよね」 涼 「女の子大好きだからな」 一舞 「一番は涼ちゃんだと思うけどね」 涼 「…うん、まぁ昔は……兄貴に追いつきたくて、甘えたくて…いつもくっついてたよ」 一舞 「そうだったんだ…?」 涼 「…ただ、親からはピアノとか色んな事で兄貴と比較されてて…それが辛かったってか、ほらあの人すげーじゃん才能が」 一舞 「……うん」 涼 「だから俺は、そのプレッシャーから逃げたくて、ピアノもどうでもよくなって……兄貴からも逃げるようになって…」 一舞 「…」 涼 「んで…落ち込んで翔くんの家に行くと、よくギター弾いて聴かせてくれて…てか翔くんの才能も半端ねーけど、自由でいいんだってこと教えてくれたからな」 一舞 「…」 涼 「でも俺がピアノ辞めたことで、親の期待がそれまで以上に兄貴に向いてただろうし、兄貴も辛かったのかもしれない…」 一舞 「………透瑠くんは、《これが俺の役目だから》って言ってたな」 涼 「…は?」 一舞 「自分がピアノをやらなかったら、涼ちゃんが可哀想だって…」 涼 「………」 一舞 「……?」 涼 「…………」 一舞 「……ん?」 涼 「………てかお前何?」 一舞 「…え、何って何?」 涼 「なんでそんなに…どいつもこいつも手懐けちゃうわけ?」 一舞 「なっ!?知らないよっ!」 (てっ、手懐けるって…!!) 何故そんなことを言われるのか意味がわからなくて、必要以上に焦ってしまった。 涼 「…なるほどね……ダメなはずだよな俺じゃ」 一舞 「…へ?」 涼 「いや、こっちの話。そろそろ上に戻るか」 一舞 「誤魔化すなよな」 涼 「え?何がぁ?」 一舞 「もうっ!」 バシッ!! 涼 「いった!?」 (何がぁ?じゃないよまったく!) …でも、涼ちゃんとこうして話せたことで、あたし達のグループは少し前に進めそうな気がする。 一舞 「………」 (…良かった) 先に立って階段を上がる後姿を見つめながら、あたしの心は安堵していた。 Novel☆top← 書斎← Home← |