原因2





 その日の夕方。夕飯の材料を買い込んだエコバッグをぶら下げて、まだ誰も帰っていない家に入る。

 部屋着に着替えて、エプロンを装着。今日の夕飯はカレー。簡単に済ませたい日はいつもカレーだったりする。



 グツグツと鍋が煮立ってきた頃、玄関からガタガタと物音が響き、ママとパパが帰ってきたのだとわかる。

 「ただいまー」という声が2人分。静かだった室内が、一気に騒がしくなる。




「はぁ〜!疲れたぁ〜!」


 そう言って、ソファーにドッカリ腰を下ろしたのはママ。パパはいそいそと、グラスに注いだ麦茶をママのところへ運んでいく。


 あたしにとって、2年前に初めてできたばかりの父親。

 橘 龍二、28歳。ママが作ったモデル会社のトップモデルらしい。

 ママは 華、34歳。現役モデルに引けを取らない抜群のスタイルと若さは、あたしにとっても憧れだ。

 パパもママも、昔はかなり派手なことをして暮らしてたらしく、あたしにはイメージ出来ない世界の思い出を共有してる2人は、年の差を感じさせない仲の良さだ。




龍二
「一舞ちゃん、手伝うよ」



 そう言ってパパが横に立ったので、遠慮なく手伝ってもらう。



 そういえば、パパが家族に加わってからママはとても幸せそうだ。

 血は繋がっていなくてもあたし達は家族。ママを幸せな顔にしてくれる人は、あたしにとっても大切な人だから。


 パパと並んで立つキッチンには、今日の複雑な出来事を忘れるくらい和やかな空気が満ちていた。













「お前…何かあったろ?」



 食卓についてすぐ。「いただきます」のついでに、ママが言った。



一舞
「うっ…えっ…な、なんで?」



 とても分かり易くうろたえてしまったあたしをチラッと見て、ママは続ける。



「チビの時、髪の色でハブにされた時も、中学で生活指導の馬鹿に文句言われた時も…涼の馬鹿と別れた時もカレーだった」



 ムシャムシャとカレーを頬張りながら、淡々とあたしの過去を暴露する。




「しかも、こういう簡単なヤツな〜」



 そして、ゴロッと切られたジャガイモをスプーンで持ち上げて、切り口から何かを探り出しそうな表情をしている。



一舞
「べつに…ちょっと疲れてるだけだもん」


「あっそ?」

一舞
「てか…ハブられたんじゃなくて、こっちがシカトしてただけだし」


「へぇ〜?……でもシカトしたって五月蝿いヤツは居るじゃん?」

一舞
「…そんな奴に、あたしは負けないし」


「よし!それならいい!」



 何がいいんだかよくわかんないけど、とりあえず話題を逸らせた感じかな…?いくらなんでもあんなこと言えないし。

 すると…


龍二
「その後、涼とはどうなの?」



 パパ、KY発言。



一舞
「パパうるさい」



 思わず言ってしまった。




「あははははははっ」



 落ち込むパパの背中をバシバシ叩きながら、ママが大笑いする。

 笑えないあたしは、早く涼ちゃんの心に気づきたくて、少し焦っていた。





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