進化5



『付き合えない』


 まるで質問の答えになっていないあたしの言葉。

 蓮ちゃんは少し険しい表情になって、あたしの肩を掴み、こう言った。




「…翔さんを好きだからなのか?」

一舞
「え…?」



 新しい疑問を投げかけてくる彼の、その声の振動に少し後悔がよぎって、次の言葉を探した。




「………好きなのか?」

一舞
「っ…そういうんじゃなくて…」


「…じゃあ何だ」

一舞
「…」

(どう言えばいいのかな…)


 うまい言葉が見つからなくてだまってしまうと、蓮ちゃんの手の力が緩んで、彼は目を逸らす。



「…悪い……困らせるつもりじゃないんだ」

一舞
「………」


 なんて悲しそうな顔をするんだろうか。


一舞
「…あたし」


「…」

一舞
「翔の事…好きだけど、その《好き》が恋愛感情かどうか、自分でもわかんないし…」


「……」

一舞
「…てか…蓮ちゃんに対しても同じなんだと思う」


「……俺?」

一舞
「…うん…泣きそうな顔してたら、普通に抱きしめちゃうと思う」


「………」

一舞
「つき合うって…あたしには難しくて…」


「………」

一舞
「涼ちゃんの時は単純に嬉しかったし、その《好き》が違うものだなんて思わなかったから…あんな風に傷つける結果になっちゃったし…」


「…………」

一舞
「蓮ちゃんにまで同じ事、したくないんだよ…」


「………………」

一舞
「………………」


「………………別に…今すぐ答えを出せとは言っていない」

一舞
「…わかってる……けど…恋愛感情がわからないのに、誰かと付き合うのは…無しかな…って…」


「……………」

一舞
「ずっと想ってくれてたことにも気づかないで、ごめんね…」



 あたしがそう言い終わると、蓮ちゃんは今にも泣きそうな顔になって、あたしの肩におでこを付けた…。

 そんな顔をさせてるのは自分なんだ…と、あたしまで切なくなってくる。

 あたしにとって彼は掛け替えのない友達なのだ。今も昔も変わらず大切な…。


一舞
「……」


 あたしはそっと、蓮ちゃんの首に腕をまわす…。

 一瞬ピクリと反応したけど、あたしの腕を振り払う気は無いようだ。

 逆にあたしの体を引き寄せて、足りないとでも言うかのように、あたしの背中にキツく腕を巻きつける。



「……わかった…」

一舞
「………」


「俺も…………これでいい」





 少し掠れた声で呟いた。

 肩の辺りが少し熱い気がする。



 ほんの一瞬、あたしの首筋に軽く触れる感触がしたけど…

 何も、言えなかった…。





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