進化2




 螺旋階段を上り、幾つかある部屋の中から、海側に窓がある部屋を選んだ。

 手荷物を置いて窓を開けると、海からの心地いい風。

 あたしはただその心地よさに身を任せ、しばらく海を眺めていた。






       コンコン…





一舞
「…?」


 ドアをノックする音に振り返ると、翔が残りの荷物を運んできてくれたところだった。



「ここ置くぞ…」

一舞
「うん…ありがと」


「……酔ったのか?」

一舞
「え?……ううん、風に当たってただけ」


「…そうか」

一舞
「……」



 みんなの前では見せないけれど、翔もやっぱり元気が無い。



一舞
「……翔は大丈夫?」


「……あぁ…大丈夫だ」


 あたしの問いに答えながら、あたしの髪をサラリと撫でる。


一舞
「……」


「………」


 でも、言葉とは裏腹な悲しげな瞳を見ていたら…頭を撫でてほしいのは翔の方なんじゃないかと思えてきて…

 自然とあたしの手は、翔の頬へ伸びた。



「………」



 翔は無言で、あたしの手の平に頬を押し付けてくる。

 あたしはその仕草に胸を鷲掴みにされた気分になって、気がつくと、翔の首を引き寄せていた。





「………ごめん」


 翔はあたしの肩越しに小さく呟いて、身を任せてくれる。


(やっぱり、辛かったんだ…)


 男の子って、なんて繊細な生き物なんだろう…。

 あたしは此処で、いったい何をすればこの寂しさを振り払えるのか…


 翔の髪を撫でながら、ちょっと泣きそうになってしまった。


















 数分後。

 翔を宥めていたはずのあたしは、少し困っている。


一舞
「……」


「……」


 さっきまでは、あたしの肩に頭を預けていただけの翔が、今はあたしを抱きしめている。

 これはどう対応したものか、とてもじゃないけど落ち着かないし、心臓は早鐘を打っているしで、抱かれた背中に若干の冷や汗なんかも感じている。

 時々身を捩ってどうにか離れようとするあたしを、まるで頬ずりでもするような仕草で引き寄せるから、全く解放してもらえる気がしないのだ。


(なんだろう…この人実は、凄い甘えん坊なんじゃ…)



「……ふっ」

一舞
「!?」


 あたしを抱きしめたまま、翔が突然、微かな笑い声を漏らす。


一舞
「え?なに?」


「ん?…ふふっ…いや」

一舞
「ちょっ…笑ってんじゃん!」


 落ち込んでいると思ったからこういう行動になったのに、いよいよ本気で笑い始めた翔。

 あたしは堪らず彼を引きはがす。



「違う違う、ごめん。あんまり可愛い反応するから可笑しくなって、くふっ」

一舞
「なっ…なに…」


「くくくっ…」

一舞
「わーらーうーなー!!」


「ぶっは!」

一舞
「〜っ!!」

(大爆笑じゃん!もー!意味わかんない!!)


 室内に響き渡る笑い声。その原因はまったくわからない。

 でも、笑えるのなら、それは少しでも元気を出してもらえた証拠なのだろうから、今回だけは、許してあげることにしよう。


 そう思った。



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