進化1 翌日朝8時。 合宿場所へ向かうため、参加メンバーが全員《Junior Sweet》の前に集合した。 くじ引きで車の振り分けをして出発。あたしと、涼ちゃんと、蓮ちゃんは、翔の車だ。 (うん…なかなか気まずい) 涼ちゃんとは友達に戻ってから日が浅いし、蓮ちゃんからは告白されたばかり。翔に至っては、透瑠くんのことでシリアスな面を見せられたばかりだという…。 それに昨日の事があったからか、蓮ちゃんからはやたらと気をつかわれてるし、涼ちゃんは眉間にシワを寄せたまま…車内はずっと沈黙が続いてる。 翔はそれほど口数の多い人じゃないみたいだから仕方ないけれど、後部座席からのオーラが今日はとても重いのだ。 (…参ったな) そんな重苦しい車内とは裏腹に、快適な速度で走る車はいつしか山道を通り、海に近いところに出た。 微かに磯の香りを感じる…学ちゃんの別荘、実は海沿いにあって、プライベートビーチも完備されてると、弥生ちゃんが言っていた。 (はぁ…香澄や由紀ちゃんがいたらなぁ…) せめてあの2人が一緒にいてくれたら、どんなに複雑な状況でもきっと楽しめただろう。 車内のあまりの静けさにとてつもない心細さを感じながら、あたしはいつの間にか眠ってしまった。 …………… ……… … ブワッ!! (!!?) 磯の香りと強い風に叩き起こされる。 寝ぼけ眼で確認すると、何故か助手席の窓をいつの間にか全開にされていたようだ。 翔 「そろそろ着くぞ」 運転席でニヤニヤしながら、強風で髪の毛がボサボサになっているあたしに、翔が言った。 翔 「ほら…海」 一舞 「……」 ほら…って、親指で窓の外を指さしているけれど…左ハンドルの翔の車。海なんて、運転席側からしか見えないのに。 一舞 「こっちからは見えませんが…」 翔にとってはあたしの居眠りなんか慣れたものだろう。だけど、それがどうも悔しい。髪を直しながらそっぽを向く。 一舞 「っ!!」 涼 「あっ!」 蓮 「っ!?」 せっかく髪の毛を直したのに、翔があたしの頭を引き寄せるからまた乱れてしまった。 翔 「これなら見えるだろ?」 一舞 「………」 (…黒笑いしやがって) …まぁ確かに、今の状態ならば見えますけどもね。 一舞 「………」 視界に入った景色。 昼の太陽でキラキラとする波。 そんな光景に少しだけ気分が上がる。 そうこうしているうちに、車は目的地に到着した。 海が見渡せる高台に建つ可愛らしい別荘。 砂浜には何も無く、波の音だけが静かに響いて、凄くいいところ。そこから階段を降りると、すぐにプライベートビーチへと繋がっている。 あたしはその階段の側に立って少し海を眺めた。 蓮 「一舞の荷物、これだけか?」 一舞 「えっ!?」 蓮ちゃんの声にハッとなり振り返る。 一舞 「…うん」 駆け寄って、自分の荷物を受け取ろうとしたんだけど…蓮ちゃんはそのまま、ヒョイと担いで運んで行ってしまった。 一舞 「………」 (…あぁ………いつにも増して、女の子扱いされちゃってるよあたし) 多少やりにくさを感じながら別荘の中に入るとそこは、玄関とかリビングとかの隔てが無い広い空間になっていた。 入り口を入って左側に大きな窓と、その向こうにはテラス。 アイアンでできたカウチが置かれた窓辺から、右へ右へと目線を移していくと、とってもくつろげそうなソファーが置かれた一角。そして広いキッチンスペースと、そこから広がるダイニングスペース。さらに右へと目線を移すと、奥へ進む通路と、向かい合わせに設置された螺旋階段。 (…これが学ちゃんの別荘) 学 「そんじゃ部屋割りするか」 学ちゃんの一声で、リビングの中央にみんなが集まった。 何気なくその輪に加わると… 学 「一舞は一応女だから1人で好きな部屋使っていいぞ」 一舞 「えっ?でも」 純 「せやなぁ…別に割り振りに参加してもええで。なんやったら俺と一緒なるかぁ?」 一舞 「やっ…遠慮します」 純 「なんや冷たいな」 一舞 「てか純くんにからかわれるとは思わなかったな」 純 「あはは…まぁ…誰かがアイツの代わりやらな寂しいやん…」 一舞 「……」 (…あ…透瑠くんのこと言ってるんだ) 純くんの一言でなんとなく、少しだけ空気が沈んだ。…みんな何も言わないけど、やっぱり寂しいんだろう。 一舞 「じ、じゃあ、部屋選んでこようかなぁ〜!どうせだから一番景色のいい部屋にしよ!」 学 「あぁ、そうしろ」 学ちゃんの声も、なんだか元気が無い。 (…なんとか元気になれる方法って無いかな) 螺旋階段を上りながら、みんなの暗い顔を見てしまって、ちょっぴり気分が沈んだ。 今回のことは、透瑠くんだってきっと辛かったんだから、あたしたちが暗くなってちゃダメなのに…。 部屋のドアを閉めて一人、やりきれない気分をどうしていいかわからなかった。 Novel☆top← 書斎← Home← |