悲観7




 今回の事件はかなり重く受け止められた。

 主犯の3人は学校側からの処分を待つことになり、5人の男子部員は店側からの強制解雇により、バンド部を即日退部。

 あたしは、蓮ちゃんからの配慮で1人、今日の部活を休むことになったわけだけど…。


 確かに今回の事件は、あたし以外にも被害者がいたし隠してはおけない。涼ちゃんから店側に話が伝わってしまうのも当然だし、部員たちを預かる店側としても、オーナーの学ちゃんにかなりの迷惑をかけてしまっている…。

 あたしはなんだか申し訳なくて、蓮ちゃんと歩く帰り道、綾に電話をした。


 『涼ちゃん先輩のあの剣幕…アンタに見せたかったよ』なんて、綾は笑ってたけど…部員が突然減るってことは、管理を任されている綾にとっても大変な変化なわけだから。それもなんだか申し訳ない気持ちになった…。


 それに心配なことがひとつ。

 香澄と由紀ちゃんのこと…。

 きっと、あたしなんかよりずっと怖かったに違いないのに、2人はいつも通りに部活に出なきゃならないなんて…あたしばかりがこんなに気をつかわれているのがなんだか…。


一舞
「…?」



 右手に触れる急な温度に驚いて、顔を上げる。



「…そんな顔をするな」


 こちらを見ずにそう言った蓮ちゃんの手が、あたしの右手を包んでいる…。


一舞
「……」


「…大丈夫だ。香澄には照がついているし、由紀の事は俺がフォローする」


(…蓮ちゃん…安心させようとしてくれてる?)

一舞
「…うん。ありがとう」


 こんな蓮ちゃんは知らなかった…。それ以上の会話は無かったけど、あたしの手は優しく包まれたままで、家までの道をゆっくり帰った。




















一舞
「…送ってくれてありがとう」


「…あぁ、大丈夫か?」

一舞
「うん」


「…そうか」

一舞
「……」


「……」


 家の前に到着して数分。まだ手は握られたままだ。

 門の前に2人並んで、黙って突っ立っている。まだ、心配してくれているのだろうか…?


一舞
「…あの、もう大丈夫だよ?」


「…あぁ」


 握られた手が、更に圧迫される。蓮ちゃんの手に力が込められて、少し痛いくらいの圧力を感じる。


一舞
「……」


「…悪い」

一舞
「…え?」


「…これでも一応、テンパっている」

一舞
「……?」


「……俺はずっと、お前の隣を歩くことを夢見ていた。だが、いざそうなると、どうしていいのか分らないんだ」

一舞
「………うん」


「……余裕が無くてすまない」

一舞
「ううん」


「…何かあったら、何でもいい、俺を呼べ」

一舞
「………」


「…涼や翔さんよりは暇だ」

一舞
「…うん、ありがとう」


 ようやく離された手。蓮ちゃんは、時々こちらを振り返りながら部活に戻っていく。

 あたしは彼を見えなくなるまで見送ってから、家に入った。




 まだ誰も帰っていない我が家。リビングを素通りして、自分の部屋へ向かう。

 部屋の前に辿り着き、ドアに手をかけたとき、ケータイが鳴った。


 開くとそこには、透瑠くんからの絵文字だらけのメール。

 元気そうな雰囲気で作られた文章を見ていると、この前の悲しげな彼が脳裏に蘇って途端に心配になった。


(大丈夫かな…ちゃんと眠れてるのかな)



 なんて、なんでもかんでも心配になってくる。


 彼の状況を知っている人がどのくらい居るのかわからないけど、学校で見た涼ちゃんが、なんだか辛そうな顔していたし。明日からの合宿にもなんだか不安が募る。


 …昨日今日と色々あったからなのか、あたしの頭はいつになく悲観的だった。




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