悲観3



 翌月曜日は終業式。

 式の前に、予定通り新部長を選出するミスコンが行われた。

 玄関には投票箱が設置され、候補者のプロフィールや写真が並ぶ。登校してきたばかりの生徒たちの行列が玄関の外にまで続いている。

 あたしも順番がまわってくるのを待って投票を済ませ、終業式のスタッフとして配置についた。





 終業式が終わって、みんなが出払って1人になった教室で、開票の手伝いをするため
部室に向かう準備をしていた時だった。


「たっちば〜なサン」

「もう帰るの?」

一舞
「………」


 教室の出入り口を塞ぎながら、声をかけてきたのは、蓮ちゃんを慕ってるらしい
バンド部の男子部員とよく連んでいる連中だ。

 前にも少し絡まれたことがあった。でもその時は、由紀ちゃんが一緒だったから逃げたんだけど…


(……はぁ…こんな時に面倒だな)


「あ、もしかしてこれから部活?」

一舞
「……何か用?」

「…まぁね。てか、もっとニコニコしてたほうが可愛いよ」

「つか…ちょっと付き合ってよ」

一舞
「は?やだ」

「ハッキリしてるねぇ、でも…ついてきてもらうけど」

一舞
「!」


 そいつが開いた携帯電話のディスプレイには、由紀ちゃんと香澄の姿が写っている。


「彼女たちはついてきてくれたよ」

一舞
「…2人に何したの!?」

「まだ。何もしてないよ〜?てか橘サンにちょっと確かめたいことがあってさぁ」

「そうそう、ふはっ。ただ話があるって言ってもついてきてくれないでしょ?だから用意しといたんだよ」

一舞
「…最低」


 見せつけられた写メの中の香澄と由紀ちゃんは、すごく怯えた表情をしていて…あたしはそれだけで血が逆流しそうなほどに怒りがこみ上げる


「怖いなぁ、そんなに睨まないでよ〜」

一舞
「…あたしが行けば問題ないんでしょ?だったら2人は解放してよ」

「りょ〜かいじゃあ一緒に行こ」


 そう言ってあたしの肩に伸ばしてきた手をスッと避け、教室から出る。


(…いったい何?香澄や由紀ちゃんを巻き込んでまであたしに何を確かめたいっていうの?)


 怒りと苛立ちを必死に抑えながら、彼らに囲まれるように移動した。
















 たどり着いたのは、終業式を終えたあとのコンサートホール。そのステージの下にある倉庫だ。

 片づけが終わってしまったあとのホール内に人の気配は無く、ステージの下ともなると、完全なる死角。その薄暗い灯りの下に香澄と由紀ちゃんが寄り添って座り、その周りを部内でよく顔を合わせる男子部員たちが取り囲んでいた。



一舞
「お前ら…!!」

 2人を取り囲む男子達を睨みつけると、揃って目を背けた。


(怖かっただろうね…由紀ちゃんは未だ男子に慣れていないし、香澄には男子に対するトラウマがあるのに)


一舞
「…わかっててやってんだろうな!?」

「いいからお前も並べよ」


 ドンッ!

一舞
「!!」


 男子部員に言葉を投げると同時に背中を押された。その勢いでよろけて、あたしは地面に膝をついてしまった。



「…橘はともかくさぁ…沢田と藍原はマズくね?」


 バンド部の男子部員の1人が不安を漏らす。


「大丈夫だろ…照さんは安パイだし、蓮さんにとっちゃこんなのオモチャだ」

「…そうなんだろうけどよ…つーかコイツ最近、仕事できねーくせに蓮さんのお気に入りだから面白くねーよな」

由紀
「…!!」

香澄
「…照なめんな」

「香澄ちゃんわ怒っても可愛いね〜」

一舞
「………」

(やっぱり、香澄たちを解放する気は無いみたいだね…だったらあたしが守るしか無い)


一舞
「ヘラヘラすんな気持ち悪い。早く用件言いなよ」

「強いよねぇ、てか何されるかわからないかなぁ」

一舞
「……」

「…俺らさぁ…橘サンが本当に女子なのか気になっちゃって、夜も眠れない的な?ははっ」

一舞
「……は?…だから?」

「確かめてみたいなぁと思って」

一舞
「!…」

「っじゃないと涼さんの《ゲイ疑惑》が晴れないよな」

一舞
「……」

(…くっだらない)


「ってことで、さっそく始めよっか?香澄ちゃんたちは後からね〜」

香澄
「一舞に手ぇ出すな!」
「押さえろ」

一舞
「……!」

(…男子の数は合計何人?…あたしを呼び出しに来た3人と、部活サボってくだらないことしてる部員が5人…8人か)

(イケるかな…)


一舞
「………」

「あれ?…抵抗しないの?実はこういうの好きなのかな?」



 数人に押さえつけられながらも静かにしているあたしを、半笑いで見下しながらそう言った。


(まったく。どうして男ってこうなんだろう…力で押さえれば何でもできると思ってる奴が多すぎる)


 あたしのシャツのボタンを、あたしの目を見ながらゆっくりと外していく目の前の男子。抵抗されない事がつまらないらしく、軽くため息を吐く。


「本当に平気なんだな。ちょっとガッカリ」


(…平気なわけない。だけど、狼狽えたり怯えたりしている顔を見せるのは絶対に嫌だ)

一舞
「…で?」


「…まぁ…ここまでは女子…って感じかな?」

一舞
「…わかったんなら離してよ」


「ダメ。だってまだ確定じゃないし」

「あの涼さんと付き合ってたんだから、もうちょっとハードル上げてやんないと」

「なるほど」


一舞
「!」

(…このままだと、ちょっとヤバいな。マジでこれ以上は我慢できない)




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