宴席6



―[藍原邸]―――――――――――side 一舞



「何したらこんなギャグみたいな顔になるんだよ」



 冷たいタオルを頬に押し当てているあたしを見ながら、翔がため息まじりに言った。そして再び、リビングのソファーに座ったんだけど、何故か今度は向かい合わせ…。


一舞
「え〜と…何でしょう?」


「何でしょうじゃねーよ。みんな居ないのはどうしてだ?お前の顔が腫れてんのは何故だ?あとその手も。…俺が寝てる間に何があった?言ってみろ」

一舞
「…なんかお説教されてる気分」


「間違いなく説教してんだよ」

一舞
「……」

(なんで説教なんだよ…)


一舞
「………みんなが居ないのは、打ち上げがお開きになったからで…あたしの顔が腫れてんのと、手の傷は……言いたくない」


「…………」

一舞
「…………」


「…あっそ」



 そう言うと翔は、携帯電話を取り出して、どこかに電話をかけはじめた。


一舞
「…あの」


「うるさい」

一舞
「え〜?」

(うるさいって何だよ!)



「あ、もしもしあのさぁ…俺いま目ぇ覚めたんだけど、寝てる間に何があったか教えてくんねーかな。…あぁ…そう…うん…」

一舞
「……」

(誰に電話してんのかな…)



「わかってるよ怒るなって。何言ってるかわかんねーしお前…あぁ……おぉ……そんで?……うん」

一舞
「………」

(…誰でしょうか?てかお願いだから言わないで)







 少しして、携帯を閉じ、翔がこちらを向く。




       ぺしっ!


一舞
「った!?」

(おでこ叩かれた〜!!)



「…馬鹿かお前は。そしてすぐ隠す」

一舞
「…誰に電話したんだよ〜!」


「純」

一舞
「…うは」


「学さんに喧嘩売るとか馬鹿にも程がある。つか起こせば良かったんだよそんなもん」

一舞
「だって本当に眠そうだったから…」


「今朝は無理矢理起こした奴が何言ってんだよ」

一舞
「だからだよ。朝早く起こしちゃったから……それに、あの状態の学ちゃんは手加減してくれないから」


「…は?」

一舞
「……」


「手加減とか要らねーし…」




 そう言って翔は、少し口を尖らせた。



 時刻は午前1時。真夜中に、翔の家の薄暗いリビングに2人で居る。

 口を尖らせて不満顔の翔は、はぁ…っと1つため息を吐いて、あたしの顔に視線を移す。そして、腫れているあたしの頬にあてられた冷たいタオルに手を伸ばす。




「…ちょっと見せてみろ」

一舞
「………」



 翔の声が優しくなったのがわかったので、素直に従う。




「………ムカつく」



 そう言いながら、ちょっと切ない顔をしてあたしの頬を撫でている。



(…うん。 痛い)


一舞
「…翔?…あの」


「……思いっきりひっぱたきやがって」

一舞
「……痛いよ」


「……うるさい」

一舞
「…?」

(もう!何なんだよさっきから!)



「…手は?」

一舞
「これは…弾みで学ちゃんに殴り返したから…」


「…ぷっ、カッケー」

一舞
「初めてヒットしたんだよ」


「ヒットさせんでいいっつの」

一舞
「ふはっ」

(やっと笑ってくれた)



「……無茶すんなよな」

一舞
「………」


「………」




 翔もあたしも、右手の傷を見ながら固まったように動けなくなって、目線を動かすタイミングを見失っていたんだけど…それが何故なのかわからなくて、思い切って翔の顔を見てみた。


一舞
「!!」


「!!」



 お互いに目線がぶつかって何故だか慌ててしまう。



一舞
「……」


「……」

一舞
「……か…えろっかな」


「……その顔で?」

一舞
「…う……マズいかな」


「……わかんねーけど…もう少し冷やしていけば?」

一舞
「…ん……そうする」





 …とは言ったものの。



(変に緊張するんだよね…なんでかな)



 あたしが黙っているからか、翔も黙ったまま。そのうち心臓の鼓動が、無意識に早くなってくる。



(なにこれなにこれ!?)



 今日のあたしは、なにかがおかしい…。




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