宴席4



(どうしよう…学ちゃんがこっち来る!)


 洋ちゃんのKY発言のせいで、翔の居眠りが《仕事モード》の学ちゃんに知れてしまった。




「一舞…そこどけ」

一舞
「……」

(いやいや、ヤバいってその鬼瓦)


一舞
「無理です」



 超威圧的な学ちゃんを、どうにか抑えたくて頑張ってみるけど…全然聞き分けてくれる気がしない。




「黙って言うことを聞け」

一舞
「聞けません」



 なんだかちょっと、あたしまでイライラしてきた。

 嫌だと言い返しても、聞き入れる気など無いのはわかってるんだけど…翔が寝てしまったのはあたしのせいでもあるわけだから…。





 何度かの言い合いの末…


 「だから無理って言ってんの!」とあたしが声を荒げた次の瞬間。











   バッチーン!!




 もの凄い音と共に、あたしの頬に学ちゃんのデカい平手…その勢いで数歩よろけた。




「いいからどけっつってんだろ!」



 平手打ちのテンションのままに学ちゃんが怒鳴る。

 普通なら、ここで大人しく言うことを聞くんだろうけど、あたしは違う。




一舞
「……」

(…あー……もー!あったまキタ!!)



「わっ!?一舞!待て!!」










   ガンッ!!






















 一瞬、涼ちゃんの声が聞こえた気がしたけど。止めるのは無理だった。

 あたしの拳は学ちゃんの顎にクリーンヒットして、その体を微妙に舞上げた。


一舞
「つーか起こすなって言ってんだろハゲ」


 シーン…とした室内に、あたしの声が響く。

 学ちゃんは白目をむいてダウン。部屋は一層静まり返り、翔の寝息だけが…安らかに響いていた。




「…おいおい〜」

























(あぁ……ほっぺと右手が痛〜い)


 つい手が出てしまった。と、言い訳したところでもう遅いのだけど。学ちゃんには悪いことしちゃったなってのもあるんだけど。みたいな感じで反省中。



「マジで殴ると思わなかったぞ」

一舞
「……あ」


 ソファーで小さくなって反省中のあたしの傍に来て、涼ちゃんが言った。


一舞
「…ん…自分でもビックリ」


「……」

一舞
「…まぁあたしが殴ったぐらいじゃ何ともないから、すぐ目ぇ覚めるよ」


「だろうな…………………てか、ソレ…手当てしたほうがいいぞ」

一舞
「……」



 涼ちゃんが指差したあたしの手には、小さな切り傷が出来ていて、多少の出血と打撲痕。




「あと顔も冷やせ…」

一舞
「………うん…ありがとう」



 涼ちゃんに、呆れられちゃったかもしれない。

 学ちゃんは意識が飛んじゃって、もう1つのソファーで横になっているし、ホントに自分の血の気の多さには困ったものだと思う。



??
「…学…また弥生にどやされるな」



 背後から、聞き慣れたハスキーボイスが、まるでこの状況を楽しんでいるかのように響く。



一舞
「あ…アキラくん…」



 アキラくんは学ちゃんの大親友で、あたしのパパの弟…だから、彼も《伯父さん》ってことになる。

 プライベートが見えないくらいいつも忙しそうだから、最近はこういう時しか会うことは無いけど、いつもとても優しくしてもらっている。



一舞
「アキラくんごめんね…せっかく忙しい中来てくれてるのに…こんなで」


「いや…ふふ…お前と学の仲良し加減は面白いから、大丈夫だよ」

一舞
「……」
(やっぱ楽しんでんのね…)



 結局その後、倒れてる学ちゃんの代わりにアキラくんが仕切って、合宿の日程と夏休み中の営業について説明があった。そして打ち上げがお開きになったあと、ぐったりしてる学ちゃんを送り届けるのは、アキラくんが買って出てくれた。


 ホント申し訳ない。


(最近あたし、自由すぎるかもしれないな…)



















 みんなが引き払ったあと。相変わらずスヤスヤ眠っている翔をそのままにして、腫れ始めた頬と、傷ができた右手を処置する。


一舞
「…学ちゃんビンタ、久しぶりだ」



 鏡に映る、片頬の膨れ上がったギャグみたいな自分の顔を見て、小さい頃に学ちゃんからよく怒られていた記憶が蘇った。

 殴り返したのは初めてじゃないけど、あんなに綺麗にヒットしたのは初めてだ。そう思うと、右手のヒリヒリする痛みもちょっと面白くなってくる。





 洗面台の前で、1人含み笑いしていると…




「なっ!?なんだその顔!!」

一舞
「!?」

(あ……)




 寝起きの翔に見つかってしまった。



prev * next

Novel☆top←
書斎←
Home←


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -