宴席2




(代替わり………そうか、部長交代の時期でもあるんだ。だけどいきなり指示も出してもらえないなんて大丈夫かな)


 涼ちゃんの指揮におんぶにだっこないつもの光景を思い出す。



「…それから、もう一つ」

一舞
「!」

(あ、聞いてなきゃ)




「橘 一舞」

一舞
「うえっ!?はい!」

(急に名前呼ぶからビビった!)



「浅葱 涼」


「うっす」


「辻口 照」


「はい」


「斉藤 洋」


「えっ?俺?」


「斉藤 蓮」


一舞
「……」

(だからまだ来てないって言ったじゃん…)



「……まだ来てないのか?」








       ガタンッ









「すみません。遅くなりました」


「…来たな。蓮、聞いてろ」


「はい」

一舞
「……」

(…良かった。蓮ちゃんも由紀ちゃんも間に合ったね)




 ギリギリで入ってきた蓮ちゃん。その後ろから、由紀ちゃんがよろけながら入ってくる。



由紀
「はうっ!」

一舞
「!」

(あ!危ない!)



「…ほら」

由紀
「あ……先輩、ありが…と、ございます」

一舞
「……」

(…あら?)



 よろけた由紀ちゃんを、蓮ちゃんが支えている…そんな不思議な光景に驚いて、危うく学ちゃんの話を聞き逃すかと思った。





「続けるぞ。今名前を呼ばれた5人。お前らには夏休み明けからステージに立ってもらう」

一舞
「……」


「……」


「……」


「!」


「えっ!」

一舞
「まっ!!!」



「なんだ、不服か?」

一舞
「い、いえ」


「…いいか?…3年のメンバーは裏方から手を引く代わりにステージに専念。一舞はステージに立つ事と、今まで同様の仕事もこなせ。できるよな?」

一舞
「え、うん…あっはい」

(まじか…)



「とりあえずは以上だ。細かい話は店が終わった後のミーティングでする。今言ったことをよく頭に入れて、今夜を乗り切ってくれ」




 はい!と全員が返事をすると、学ちゃんは満面の笑みになった。




「頼んだぞ」

一舞
「……」

(モード解除?)




 そんなこんなで、急にバンド再結成とか…ヤバい!凄く嬉しい!


 まるで体が浮き上がるような感覚がするほどに、あたしの心は浮かれていた。






















 深夜0時過ぎ。

《APHRODISIAC》のラストライブ終了後。珍しく同じタイミングで仕事が終わった綾が、店の出入り口で声をかけてくれた。




「一舞おっつ」

一舞
「おっつ綾。終わっちゃったね…」


「…ちょっと…やっぱ寂しいわ」

一舞
「…だね」



 2人で並んで藍原邸に向かう道のり、口をついて寂しさが零れる。

 翔たちの、店でのライブがこれで終わった。来週からはライブも観れないどころか、会えなくなってしまう。それがとても寂しい。


 明日から翔たちがステージに立たないことは、ファンの人達には伝わっていたらしく、今夜のライブ観客動員数は信じられないくらい凄かった。

 小さなライブハウスが大量の人でギュウギュウになる光景は、普段ならやはりあり得ないこと。改めて思ったけど、やっぱり凄いグループなんだろう。



一舞
「……」

(デビューしたら遠くに行っちゃうんだ……そう考えると、やっぱり寂しいな…)



 そんなこんな考えていたら、綾からの声が、右斜め下から聞こえた。




「涼ちゃん先輩と別れたんだって?」

一舞
「……」


「ん?」

一舞
「…ふふっ、情報元は香澄だね?」


「当たり。アイツ案外お喋りだよね」

一舞
「まぁ、香澄だから許すけどね」


「一舞は甘いねぇ」

一舞
「んふふ」


「まぁ…別れた割には元気そうで安心したけど」

一舞
「ん〜…別れたって言っても…友達でいることには変わりないからね」


「なんそれ?微妙〜」

一舞
「…涼ちゃんが優しいんだよ」


「…ふぅん…つーかまあ、部内で壁作られても面倒だから助かるけど。てかこれからバンド復活だしね?」

一舞
「そうだよ、気まずくなってる場合じゃないのさ」


「ばいや〜、あははっ」

一舞
「それはそうと綾はどうなの?彼氏と仲良くしてる?」


「…あ〜、ウチはもはや老夫婦の領域だから」

一舞
「…ろ、?なにそれ」


「付き合いが長くなると喧嘩もしないって意味」

一舞
「…なるほど」



 彼氏との話をあまりしない綾だけど、たまにこういう話を聞くと、その関係がなんだか羨ましく思えたりする。


 老夫婦並みの穏やかな関係。あたしにも、そんな相手が出来るだろうか…。



(てかそれ以前に、ちゃんと恋が出来るのかが問題だけど…)




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