異変6



 個室を出ると、鏡の前に、上級生らしき人が1人。



(わぁ、綺麗な人…)



 その人は、あたしに気づいて振り返ると…にっこり微笑み、声をかけてくれた。


??
「あら?…えっと…初めまして。どこから来たの?」



 小柄で可憐な雰囲気と、くっきりとした大きな瞳がキラキラ…。

 可愛いって表現が似合うような外見なんだけど、でもどことなく大人っぽくて、同性なのにドキドキする。



一舞
「あ…っと、ピアノ科の1年で、橘 一舞って言います。すいません勝手に…」


 ドキドキしながらも慌てて質問に答えるついでに、何故か謝ってしまった。



??
「かずま…さん?…もしかして、涼の知り合いの人かな?」


(え?あたしを知ってる?)



??
「あはっ、ごめん。びっくりするよね。私は軽音科の3年で、桜井 美樹っていいます。涼とは生徒会関係で一緒だから、かずまさんの事はなんとなく聞いてるんだ」




(美樹さんは…涼ちゃんの知り合い?…てか、生徒会…って言った?)

 美樹さんの言葉に、次々と湧く疑問…だけど、あたしを見る美樹さんの優しい目になんとなく、さっきまでの色んな感情が和らいだ気がした。




美樹
「ねぇ?…女の子なのに珍しい名前だね?」



 屈託無く問い掛けてくる美樹さん…悪気が無いのは見て取れる。



一舞
「珍しいですよね…でも気に入ってます」



 昔はよく馬鹿にされた名前。でも気に入ってるっていうのは嘘じゃない。


美樹
「そっか…でもどうして男の子っぽい名前にしたんだろう?」

一舞
「あ、それは…母が、一番好きな名前だから…って言ってました。」

美樹
「そうなんだ…じゃあ凄く良い名前だね」



 にっこり微笑んで、美樹さんはそう言ってくれた。本当にそう思ってくれてると感じる笑顔だと感じて、なんとなく…この人には何でも聞けそうな気がした。


一舞
「あの、あたしからも質問していいですか?」

美樹
「うん、なに?」

一舞
「涼…ちゃん…の事なんですけど…」

美樹
「ん?…あぁ、あのね?」


 躊躇う様子も無く答えてくれる。

 美樹さんの話によると、涼ちゃんとは入学当時からの親友で…あたしの事は、何かのキッカケで涼ちゃんから聞いたのだそうだ。

 ただ。あたしの話をしていた涼ちゃんの雰囲気が、やっぱり険しい表情を湛えていたって言うから…美樹さんとしては、あたしの事をどう受け止めていいかわからなかったらしい。



美樹
「涼とは此処では一番長く接してきたから、まだまだ話すと長くなっちゃうんだけど…」


 そう言って、いつでも話せるようにとアドレスを教えてくれた。


美樹
「何があったのかわかんないけど…メイク直してあげる」

一舞
「へ?」





 美樹さんに言われて、慌てて鏡の中の自分を確認する。




(わ…!ぐしゃぐしゃだ…)



 鏡の中のボロボロな自分。それを見ているとなんだか、すごく、恥ずかしくなった。


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