進展8



―――――――side 一舞


 時刻は午後5時30分。

 食事会の準備も整い、涼ちゃんが持ってきてくれた差し入れのプリンを、みんなで食べながら休憩中。


 そろそろ他のメンバーが来ても大丈夫なんだけど、まだ店の準備が終わらないらしく誰も来ないので、涼ちゃんと翔は店の様子を見に行ってしまった。





「このプリンって超美味しいって有名だよね〜」


「え〜?マジ?知らなかった〜」


「アタシ知ってるぅ!前に雑誌に載ってたよこれぇ!有名パティシエのお薦めスイーツあげぽよ〜!」


「やば〜い涼ちゃん先輩イケメン過ぎ!」



 女子部員ばかりの藍原邸のリビング。涼ちゃんからの差し入れプリンに群がってキャアキャアと話に華が咲く。



香澄
「…差し入れにいったい幾ら使ってんだろ?涼ちゃんって何気にボンボンだからなぁ」

美樹
「貴重な女子部員を大事にしたいだけなんじゃない?」



 そう言って、美樹ちゃんはふふっと笑う。



香澄
「…ん〜…そうかもしんないけど〜」

美樹
「私が入部した頃は、女子部員なんて私以外1人も居なかったんだから。それがここまで増えたのは、洋が優しいのと、涼のフォローに卒がないからだと思うわ」

一舞
「…前は美樹ちゃんだけだったんだ?」

美樹
「そうよ」

香澄
「へぇ〜、でも確かに…歴代バンド部ってムサイ集まりだったかも。兄貴たちの頃は片っ端から透瑠ちゃんの獲物になってそうだし」

美樹
「私だって危なかったんだから」

香澄
「まぁじでぇ〜?」



 香澄のリアクションに微笑んで、たくさん増えた女子部員たちを嬉しそうに眺めながら、美樹ちゃんもようやくプリンを口にする。



美樹
「ん〜美味しいぃ!」

一舞
「…あは」

(美樹ちゃんってやっぱり、綺麗なお姉さんだなぁ…)


 美樹ちゃんの言葉も雰囲気も、一挙一動全てが可愛らしい。

 きっと、涼ちゃんも、洋ちゃんも、蓮ちゃんだって。

 美樹ちゃんという存在を、大事に大事にしてきたんだろうな…あたしを大事にしてくれてたように…。



一舞
「…わ!…やば旨!」



 何気なく口に含んだ差し入れプリン。その美味しさに顔が綻ぶ。



香澄
「なかなかやるね、涼ちゃんも」

一舞
「ふふっ、そだね」



 女子部員だけの和やかな室内。美味しいプリンと涼ちゃんの気遣いに、香澄と顔を見合わせて笑った。






 でも…。


 室内をぐるりと見回して、やっぱり気になることがひとつ。


一舞
「ねぇ香澄?」

香澄
「なに?」

一舞
「結局、由紀ちゃん来なかったけど…どうしたのかな…」



 結局、最後まで…由紀ちゃんが来なかったのが気になった。

 もしかしたら、あたしが見ていないうちに、蓮ちゃんからキツイ事を言われたりして落ち込んでいるのかもしれない、とか。彼には申し訳ないけれど、どうも《ドS蓮ちゃん》への不安が消えないのだ。



香澄
「あぁ、ユッキーなら店だよん」

一舞
「え!?」

(店!?)


一舞
「なんで!?」

香澄
「うん、なんかぁ…朝からオーナーに呼ばれてたみたいでさぁ。由紀ちゃんがこっち来れるか電話したらその時間にはもう店に居たみたい」

一舞
「…そうなんだ?…でもどうして?女子部員は全員こっちに集まる予定だったよね?」

香澄
「まぁオーナーの考えはわかんないけど、なんか機材の調整たのまれたとか言ってたし、色々向こうも大変なんじゃない?」

一舞
「……へぇ」

(学ちゃんはどうして由紀ちゃんを…?べつに彼女を呼ばなくても蓮ちゃんが居たはずなのに…)




 不思議に思いながらも心配で、由紀ちゃんにメールしてみた。

 すぐには返事は返ってこなかったけど、きっとまだ忙しいんだろう。そう思ってケータイを閉じた。



一舞
「………」

(大丈夫かな…)




 それにしても、1人で対応しようとするなんて…そろそろ由紀ちゃんも馴染めてきたと思っていいのかな?




美樹
「…心配?」

一舞
「…うん…やっぱり最初の頃のインパクトがね、頭から離れなくて」

香澄
「…蓮くん凄かったらしいもんね」

一舞
「蓮ちゃんが凄いのは、あたしの時もそうだったんだけどね」

美樹
「うそ!?一舞にはあんな優しいのに!?」

香澄
「初めて会った頃は酷い扱われ様だったよね〜」

一舞
「まぁそこはあたしだから、負けなかったけどね」

美樹
「根っからのドSなのね…」

香澄
「凄かったよ〜…信じられないくらい怒鳴り合ってたし。酷い時は殴り合いだもんね」

美樹
「なっ!?殴り合い!!?」

一舞
「あはははっ!美樹ちゃん凄いリアクション」

香澄
「普通に驚くってば」



 なんだか流れで思い出暴露大会みたいになっちゃったけど、とにかく由紀ちゃんが無事ならそれでいい。



一舞
「……由紀ちゃん…早く来ないかな」



 少しずつ暗くなり始めた窓の外を眺めながら、由紀ちゃんに何事も無いことを祈った…。





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