進展7 ――《CLUB J.S.》―――――――――side 蓮 時刻は午後4時。 藍原邸で女子部員たちが準備しているのと平行して、店では男子部員全員でイベント会場の設営をしている。 部長の涼は、女子に差し入れ持って行ったまま戻ってこないし。副部長の照は、学さんと所用で出ている。そのため指揮を取るのは俺なんだが… 蓮 「……」 (涼も照も、よくこんな奴らを使いこなせるものだ…) 揃いも揃って自分の仕事がわかっていない奴ばかりで、店の設営はなかなか進まない。 (…もう時間が無いのに…いったいどうしたらいい) 困り果てていると、背後から肩を叩かれた。 蓮 「!?」 純 「なんやぁ蓮?シケた面しとんなぁ。イケるかぁ?」 蓮 「…純さん」 あまりにも捗らない作業にいい加減ウンザリしていた俺は、堪らず純さんに相談をしてみた。 …………… ……… … 純 「あ〜、ははっ!蓮はいつもあの部屋に籠もっとるんが大半やから…びっくりしたやろなぁ。涼も照も普段しょ〜もなく見えてて意外と仕事はしっかりやっとんねんで」 蓮 「…そのようですね」 (なんか…ダメ出しされてる気分だな…) 少し落ち込みかけた俺の肩に手を掛けて、明るい声で純さんは言った。 純 「そんなショッパい顔したアカンで蓮〜。わからんもんはしゃ〜ないねんから。まぁ悪いけど俺は、オーナーから手ぇ出したらアカンて言われとるから何もでけへんけどやな…よ〜く見回して見よったら、出来る子も居るで」 蓮 「……」 (こんな出来ない奴らの中に出来る奴が居る?…純さんはそんなところまで見てるのか?) (やはり、緩く見えてもバンド部創設メンバーなんだな…) 当然のようにフロアの掃除に戻って行く純さんを見ながら自分の無力さを知らされた気分になっていた。 蓮 「……」 (そういえば一舞は藍原邸に戻ったんだろうか…?今日は翔さんと2人で買い出しのはずだが…) 恒例のくじ引きで出てしまった組み合わせとは言え、あの2人が組むなんて、俺としてはあんまりだと思っている。 涼が俺に、事前報告をしてきた理由がわかるからこそ、最近はできるだけ接点を持とうとしているのに、何故かうまく噛み合わない。 あろうことか、一番恐れていた組み合わせで事が運ばれていこうとは…。 しかも、こんな面倒な役回りを引き受けるはめになって、挙句にはまったく仕事が捗らないという嫌な状況。俺は今、とてもやりきれない。 ?? 「あの、蓮さん」 蓮 「…?」 不意に名前を呼ばれて振り返ると、ぼんやり顔の金髪が立っていた。 蓮 「…お前は…?」 慎一 「舞台担当の 森 です」 蓮 「…あぁ、2年の……何だ、どうした?」 慎一 「はい…ちょっと見てもらえますか?」 蓮 「?」 森に促されるまま、バックステージについて行く。 薄暗い舞台裏。そこで俺は目を疑った。 蓮 「!!」 由紀 「あ!せっ先輩!?」 (何故ここに沢田が居るんだ!?) 蓮 「…お前何やってるんだ」 俺の顔を見て、いつものようにキョドっている沢田。その手元には今夜使うドラムセットの一部があった。 蓮 「…そんなことをしろと、誰が言ったんだ」 由紀 「あ…あの…えっと、お、オーナーから電話で…」 蓮 「??」 (…オーナー?) 蓮 「…学さんがお前に?」 由紀 「…は、はい。すみません」 蓮 「………」 (…何故だ?俺が居るのに…何故) よく見れば、沢田が手元に置いているドラムには、皮の貼り替えをした形跡がある。 しかも素人には結構難しい作業のはずが、意外と綺麗に貼り替えられているように見える。 蓮 「…森」 慎一 「…はい。あの…この人さっきまでなかなか貼れないでいたんですけど。でも手伝ってあげたくても、俺わかんないし…と思って、蓮さんを呼びに行きました」 蓮 「…そうか…まぁまだ、チューニングしてみないことには評価はできないが」 慎一 「あ〜…そうですね」 蓮 「お前の仕事は終わったのか?」 慎一 「一応、ドラムセッティングすれば終わりです」 蓮 「なるほど、沢田待ちだったわけだ…」 慎一 「はい」 蓮 「…わかった…が…こっちはまだ完璧じゃない。…お前、他に出来るところはあるか?」 慎一 「はい」 蓮 「ならば別の場所を手伝ってやってくれるか。トロくさい奴にはお前から指示してくれて構わない」 慎一 「わかりました」 蓮 「…」 森がその場を去って2人になると、沢田は更に挙動不審になった。 由紀 「…えっと、あのっ」 蓮 「………」 (…べつに取って食おうとしているわけでもないのに何なんだコイツは) あまりにもキョドりまくる沢田に呆れながら、とにかく早く仕事をきりあげようと声をかけた。 蓮「よく1人で出来たな…見てやるから貸せ」 由紀 「あ!…はい」 蓮 「……」 (沢田のことだ。きっと、学さんから頼まれて断りきれなかったんだろうが…) さっきまで沢田が一人で苦戦していたらしいドラム。一見綺麗に貼られた皮に触れると、それなりの緊張感を保った感触がする。 (まさか、こんなに出来るようになっていたとはな…) ドラムのチューニングをしてやりながら、ちょっとだけ、沢田を認めてやってもいいかと思った。 Novel☆top← 書斎← Home← |