進展5 ―――[藍原邸]――――――――――side 涼 涼 「………」 藍原邸のリビングで、女子部員たちが準備をしているっていうから差し入れを持って来てみたんだが… (…足りない) そう思って、近くで作業をしている美樹に問いかけた。 涼 「…なぁ」 美樹 「なぁに?」 涼 「一舞は?」 美樹 「………一舞なら、翔さんと買い出し行ってるよ」 涼 「…翔くんと?」 美樹 「うん」 涼 「2人で?」 美樹 「そ」 涼 「……」 美樹 「…昨日の打ち合わせで決まったじゃない。聞いてなかったの?」 涼 「……そうだっけ?」 美樹 「……」 そう言われれば、そんな話になっていたかもしれない。というか俺は、まだ整理のつかない気持ちを悟られたくなくて、一舞から意識を逸らすことに必死だった。 涼 「…そうか」 (2人で出かけたのか…まるでデートだな) 美樹 「…それより、ちょっとアレ動かしたいから手伝ってくれる?」 涼 「あ?おぉ…」 美樹に促されて、大きなダイニングテーブルを動かす手伝いをしながら、どうも一舞のことが頭から離れなくなった。 俺と別れてからは前にも増して、翔くんと一緒にいることが多くなった気がする。 いつでも翔くん翔くん…前以上に仲が良い…っていうか、とにかく今の俺にはキツイ状況だ。 美樹 「もう一舞のこと気にしない」 涼 「…?」 美樹 「…って言ってなかった?」 涼 「…う」 (そうだけど……) 考えないようにしようと思えば思うほど、脳内が支配されていくような気がする。 別れてからそんなに時間は経っていない上に、ハッキリ言って俺の方は未練タラタラだ。いくら翔くんの事を尊敬しているとはいえ、2人がどんどん接近していくこの現実はかなりキツイ。 例えるなら、実の兄貴に彼女を奪われるような、そんな喪失感に似ている。 (この事を、蓮はどう思ってるんだろう…?) 別れるという事を知らせたのは、蓮が最初だった。 例えば俺の家に来たのが美樹だったとしても、蓮でなければ、決心を言葉にはしなかっただろう。だから俺は、蓮にバトンを渡したつもりだったんだけど…このままじゃ翔くんがかっさらっていきそうだ。 美樹がせっかく考えを止めようとしてくれたのに、やっぱり引っ張られる。 (!) …ふと、そんな俺を見つめる美樹の視線に気づいた。 涼 「…?」 なんとなく、その上目遣いの表情にドキッとして目線を返すと、美樹のため息が返ってきた。 美樹 「…はぁ」 涼 「…なに?」 美樹 「…別に。ねぇもう少し手伝っていってくれない?」 涼 「……う、うん」 仲直りできたのは良かったけど、目の前で泣いてしまった手前、少し気まずい。 たぶん美樹は、それほど気にしていないのかもしれないけど。 数時間後。まだ、藍原邸に居る。 本当なら店に戻らなきゃならないんだけど、以外に力仕事が多く、帰るに帰れない。 涼 「……」 ふと窓に目を向けると、外ではだんだん日が傾きかけていた。 一舞はまだ帰らない。そのことに落ち込む俺はなんなんだ? 差し入れを言い訳にして、会いに来たのか俺は……なんて、軽く自己嫌悪に陥った。 美樹 「…涼?」 涼 「…ん?」 美樹 「大丈夫?」 涼 「……」 美樹 「……」 涼 「…大丈夫」 美樹 「…そう」 涼 「………」 美樹の……俺を気遣う視線が痛い。だけどいい加減にしないと、本当にダメだ。 涼 「ごめん。大丈夫だから、早く準備終わらせような」 美樹 「…うん」 頭に浮かぶ色々を振り払って、俺はまた、準備に取り掛かった。 Novel☆top← 書斎← Home← |